【愛の◯◯】遠慮もなにもなく姉のことを訊いてくるから◯◯

 

『利比古さん、利比古さん』

後ろから声を掛けられた。

振り向く。

本宮(もとみや)なつきさんと貝沢温子(かいざわ あつこ)さんだった。

あすかさんが高校時代に所属していた「スポーツ新聞部」の子で、さきほど自己紹介された。

本宮さんは2年生で、貝沢さんは1年生。

本宮さんは背が高い。たぶん168センチのぼくより高い。

貝沢さんは155センチぐらいか。あすかさんと同程度の背丈だと思う。

背丈だけでなく全体的な印象があすかさんに似ている。そう感じた。

その貝沢さんが、

「あの、利比古さんの、お姉さんのことなんですけど」

と控え目に。

「姉がどうかしたのかな」と訊くと、

「すごく……美人だって聞いて」

エエッ。

「か、貝沢さん? そういう情報をどこで仕入れたの!?」

ぼくの疑問をするーっとスルーして、

「このお祭りに来られてるんですよね、お姉さんも? 愛さん、っていう名前なんですよね」

「う、うん、来てるけど、今はどっかに行っちゃってるね。自分勝手なんだ、ぼくの姉は」

「自分勝手……」

と貝沢さんは言い、それから、

「自分勝手って、なんだか、かわいいかも」

ど、ど、どーしてそう思うかな。

 

そして、長身の本宮さんが、ぼくに、

「愛さんの浴衣姿が早く見たいです。『みんな』が同じ気持ちのはず」

いや。

『みんな』って。

『みんな』の範囲は!?

「ところで――」

本宮さんは続けざまに、

「愛さんはスポーツ万能であると小耳に挟んで」

……どこから小耳に挟んでくるのっ。

「彼女がいちばん得意なスポーツは、なんなんですか?? すっごく気になるんですけど」

と本宮さん。

「そうそう!! わたしも気になります気になります!! なつき先輩とおんなじで」

貝沢さんも加勢……。

情報漏洩の甚だしさを嘆きつつも、

「なんでもできるんだけど……たぶん、競泳」

と答えてあげる。

「競泳!? スイミング!?」と本宮さん。

そうだよ。

「すごーーーい!! もしや水泳部に居たことがあったり!?」と貝沢さん。

ちがうよ。

「ちがうよ貝沢さん。姉は、勝手に自分で温水プールに出向いて泳いだりしてるだけ」

なぜか微笑(わら)いながら貝沢さんが、

「『勝手に自分で』は、余計だと思いますけど」

と言ってから、

「対照的に、利比古さんは、ぜんぜん泳げなさそう。『カナヅチ』って言うんでしたっけ?! そういう意外な弱点が利比古さんには――」

……ちがうよっ。