KHKの新作テレビ番組が、出来上がった!!
『読書』をテーマとした番組なのは、これまで述べてきた通り。
制作経緯は、過去ログの『KHK(桐原放送協会)』というカテゴリーから……。
おおっといけない。
すぐ、ぼくたちは、メタフィクショナル発言を、してしまうんだ。
――もとい。
番組タイトルは、
『それぞれの好きな本が、まぶしくて。』
板東さん・黒柳さん・ぼくの3人の、合議で決めた。
で、お邸(やしき)の大型液晶テレビで、『それぞれの好きな本が(以下略)』の映像を、再生し始めている。
× × ×
コーヒー入りのマグカップを片手に、姉がぼくの背後にやってくる。
「なにこれ? 利比古」
「KHKの、『新番組』だよ」
「『新番組』――」
「できたてほやほやの、新作テレビ番組ってこと」
姉は大型液晶テレビに視線を注ぎつつ、
「これ、読書会?」
「みたいなものだよ」
「…最初から見せてよ。わたしの興味にピッタリな番組みたいだから」
「ええ!? 巻き戻すわけ!? ここからが、いちばん面白いのに……」
「お願い。わたしの頼み、聞いて」
「ワガママだなぁ!」
「ワガママなのは、わかってる」
まったく……。
これだから、姉は……。
「お姉ちゃん……そのワガママは、ぜったい矯正したほうがいいよ」
たしなめながらも、巻き戻してあげる。
弟なりの譲歩だ。
…ぼくの忠告を意に介さないかのごとくに、右隣のソファに、姉は着席。
「ずいぶん長ったらしいタイトルねぇ~~」
「い、いきなりタイトルをバカにして。お姉ちゃんには血も涙もないの!?」
「――そんなに、いけなかった? タイトルに突っ込むの」
あえての押し黙り。
ようやく、姉は焦り始めて、
「もっもしかして怒った!? そんなにタイトルに、こだわりが……」
ふん。
「としひこぉ……」
× × ×
「――姉弟ゲンカですか?」
程なくして、あすかさんの到来。
「姉弟ゲンカなんかじゃないですよ。――ねっ? おねーちゃん♫」
こんどは姉のほうが、うずくまるように沈黙。
「おねーさんイジメちゃダメでしょー、利比古くん」
「このくらいがちょうどいいんですよ」
「……利比古くん?」
「あすかちゃぁん…」
「はい、おねーさん、なんでしょうか」
「わたしの右隣のソファに座ってくれない…?」
「あ、わかりましたっ」
ぼくの右に姉、
姉の右にあすかさん、という並び。
「あすかちゃん、利比古が……利比古が……ドンドン生意気になっていくの……。どうすればいいのかな?」
「それは『制裁』ですね」
「制裁!? ……利比古は、殴りたくないの、姉として」
「経済制裁はどーですか」
「経済制裁、って」
「根こそぎ利比古くんのお小遣いを没収するんです」
「……そういう手段が。」
「利比古くんの貯金箱を破壊するハンマーなら、邸(いえ)に腐るほどありますから」
――あいも変わらずの、やり取りだな。
それはそうとして――、
「お姉ちゃん。
お姉ちゃんが、『最初から通して観たい』って言ったんだよ?
だったら、おしゃべりしてないで、テレビ画面に集中してよ」
よし。
正論、言えた。
「――うん、それもそうだね……ごめん利比古」
しおらしく、テレビ画面に、視線を注ぎ込んでいく。
やればできる、やればできる。さすが、お姉ちゃんだね!
「――わたしは、ハンマーを探してきます」
ソファから立ち上がってそう言ったのは、あすかさん。
× × ×
着信音。
ぼくのスマホ。
マナーモードにし忘れるとは、なんたるうっかりミス。
「――川又さんからだ。」
「川又さんから!? それは出たほうがいいよ、利比古!!」
画面に視線を注いだまま、ハイテンションな声で促す姉。
「う、うん……」
「行っといで。話しておいで」
……仕方ない。番組は、あとからでも観直せる。
× × ×
戻ってくると、再生が終わっていた。
「おかえり。どうだったぁ?」
「……んーっと」
「歯切れ、悪いわね。ということはズバリ、デー……」
「……お姉ちゃん、そこまで」
「なんでわたしの話さえぎっちゃうの」
「……」
「デートのお誘いだったんでしょ? 姉のわたしに隠さないでよ」
「――できるのかな、デート」
「??」
「貯金箱――貯金箱、あすかさんにハンマーで破壊されそうだし」