【愛の◯◯】まだ取材は始まらない

 

はぁい。

私、川口小百合(かわぐち さゆり)。

とある高校の生徒会長で、7月生まれの身長167センチ。

髪型は黒髪のロングストレート。

生徒会長ということは、全生徒の頂点に立っているわけなんだけど、学業成績が中の中あたりだというのが玉にキズ。

 

× × ×

 

さて、放課後。

生徒会室の「特等席」に座って気分上々な私は、傍らに立って書類整理などの作業をしている副会長くんに向かって、

「ねえ! 副会長くん」

「なんだよ会長」

「副会長くんの好きな漫画って、なーに?」

書類をさばく手がピタッ、と止まる。

「オレのことを名前で呼んでくれたら……教えてやってもいいが」

「え~。あなただって、いつも私のこと『会長』って呼ぶじゃないの。少しは『川口』とか『小百合』って呼んでくれてもいいのに」

ブーメランが突き刺さった彼は、追い込まれ沈黙するが、やがて、

「出るたびに単行本買ってる漫画は……『名探偵コナン』」

へーーっ。

「『コナン』かぁ。副会長くんもしや、鳥取県からの回し者?」

「い、意味分からんっ」

「『コナン』っていえば、週刊少年サンデーだよねえ」

「……だから?」

週刊少年サンデーって、コンビニに置かれた日のうちに売り場からなくなっちゃうのよね。入荷数が少ないからだと思う」

「それがどーかしたのかよ」

「どんなヒトが、コンビニから週刊少年サンデーを買っていくのかしらね?」

「は、激しくどうでもいい疑問を」

「私は真剣に考えてるのよ?」

「……あのさあ。会長」

「どうしたのよ」

「『スポーツ新聞部』の部長が、もうすぐ部屋(ここ)に来るんじゃねーの?」

あっ。

「いけないいけない、完全忘却するところだったわ。ありがとう副会長くん。たまには役に立つのね」

 

× × ×

 

そして、「スポーツ新聞部」部長の日高ヒナさんが、生徒会室にやって来た。

日高さんは私の「特等席」の真正面の椅子に腰掛ける。

真っ向勝負! って感じだ。

ふふふ。

「日高さん? せっかくこのお部屋まで来てくれたんだから、ドリンク1本無料サービスしてあげるけど」

背がやや低く小(こ)ぢんまりとした体型、そして少し茶色がかったハーフアップの髪の彼女に、

「日高さんはどんなジュースがお好きかしら」

と訊く。

ツンとした彼女は、

「なんでジュースに限定するわけ?」

と反撃。

私の傍らの副会長くんがハラハラし始めるのを感じ取る。

「子ども扱いかな? 川口さんが『ジュース』って言うんなら、あたし『ジュース以外』を所望する」

「例えば?」と私。

「お茶とかコーヒーとか」と彼女。

「あいにくお茶は切らしてて。缶コーヒーなら何個か、あそこのミニ冷蔵庫に入ってるんだけど」と私。

「……マックスコーヒー、ある?」と彼女。

敢えて、「あるわけないでしょ☆」と私は突っぱねる。

「じゃあ、なにならあるの」

エメラルドマウンテンとか」

「それでいい。エメマンちょうだい」

日高さんのリクエストに応え、会計ちゃんにミニ冷蔵庫からエメラルドマウンテンを取り出してきてもらう。

会計ちゃんから手渡されたエメマンをごくごくと飲む日高さん。

缶を回収しに近づいてきた会計ちゃんの手に空になったエメマンを託して、

「あたしがなかなかこの部屋まで来なかったから、ヤキモキしてたんじゃないの?」

「ヤキモキなんかしてないわよぉ」

「ホントに!? 部長のあたしがなかなか文化祭の取材をしないでいたのが不満だったんじゃないの」

「べつに」

「ふぅん……。それはよかった」

副会長くん・書記くん・会計ちゃんが張り詰めた空気に包まれようとしているなか、ひとりだけ冷静さを保持している私は、

「日高さーん。このお部屋、居心地が良いでしょ」

と言う。

『居心地が良いでしょ』は、もちろん本気で言ったわけではなく、言わば、揺さぶり。

「……むしろ、あたしがこの空間に快適さを感じてるって思うほうが、不自然だと思うんだけど」

「そーかー。残念」

と言ってからすぐに、私は、

「日高さんあなた、風の噂では、『教室で哀愁漂う表情をしてることが多い』って」

「な、な、なにそれ!? 風の噂!?」

「そういう噂が風に乗って届いて来たから、実は私はちょっと心配してるのよ」

「……」と彼女はうつむき加減に押し黙って、それから、

「無駄な心配なんか、しなくたっていいから」

と反発。

「川口さん。前振りが長過ぎ。あたしがなんのためにこんなトコロまで足を運んだのかを見失わせないで」

日高さんはどこからともなく手帳とボールペンを取り出す。

「文化祭のことで訊きたいこと、たっくさんあるんだからっ」

ツンツンと言う彼女に、

「あなたって確か、身長153センチじゃなかった?」

「はぁ!?」

と、一気に彼女が前のめりになり、

「あたしの身長と文化祭は1ミクロンも関係ないよね!?」

とキレる。

けれども、

「あら。ミクロンとか、マイナーな単位を良く知ってたわね。流石は学業成績優秀者」

と、余裕の私。

見かけによらず優等生なのも、チャームポイントだと思うわよ? これも風の噂なんだけど、あなた確か、わせだだいがく――」

日高さんが瞬時に手帳を床に叩きつけた。