侑(ゆう)とさやかコンビの尽力によって、わたしの夏風邪はだいぶ良くなった。
立ち直る手前だ。
侑とさやかの尽力、といっても、8割がた侑のお手柄だったみたいだけどね。
さやか?
もうちょっとだけ、生活力、上げていきましょうね。
約束よ。
お互い頑張りましょ。
× × ×
さて、今日はアカちゃんが、お見舞いに来てくれている。
『とある過去』を侑に勝手に話したことをさやかに咎められ叱られてしまったこととか、昨日のあんなことやこんなことをアカちゃんに向かって話す。
わたしの居るダブルベッドのそばの椅子に座って耳を傾けていたアカちゃんが、苦笑いしながら、
「ずいぶんお喋りね、愛ちゃん」
そうね。
「そうね。回復してる証拠ってこと」
「でも、病み上がりでしょう? 病み上がりがいちばん気をつけるべきなのよ?」
「知ってる知ってる。でもね、話のネタは尽きないし、喋るたびに元気になっていく感触があって」
「まったく。愛ちゃんってば」
ダブルベッドに置かれたデジタルクロックで時刻を確認してから、
「もうそろそろお昼どきね。消化の良いものを愛ちゃんに作ってあげないとね」
優しいアカちゃんだ。
優しさが染み入るので、
「上手に作れそう?」
と、敢えて。
少しうろたえながら、
「えっ……もしかしたら、わたしが失敗するんじゃないかとか……」
「お料理スキルは、本調子のときだと、わたしのほうが上じゃないの」
彼女の顔がほんのちょっぴり苦くなる。
「お裁縫スキルでは、アカちゃんが、わたしに圧勝なんだけどね」
困って、焦って、それでも、
「わ……わたしだって、調理実習で先生に褒めコトバを頂くぐらいには、お料理できてたからっ」
「過去形?」
「過去形かつ現在形っ!!」
「うわぁ」
× × ×
美味しくて消化の良いものを見事に作ってくれたアカちゃん。
「ごちそうさま。ごめんね、からかって」
『ごちそうさま』と『ごめんね』を同時に言う気配り。
性格の悪さで名高いわたしでも、これぐらいはデキるのだ。
さてさて、食後はどうしても眠くなるもので、それに加え、病み上がりでもあるので、
「わたしお昼寝したい」
とアカちゃんに伝えた。
「それがいいわ。お喋りだったお口も休ませてあげないとね」
もうー。
そんなにやかましかったかしら、わたし?
アカちゃんも厳しいんだからぁ。
溜め息混じりに軽く笑ったわたしの大親友は、
「あなたがお昼寝してるあいだ、わたしは読書してるから」
「読書タイム?」
「そうよ」
「ねえねえ、なに読むの」
「お昼寝したいんでしょ? 愛ちゃん」
「えー、教えてくれたって」
「だめ」
「どーしてー?」
「……眠気はどこに行ったのかしら」
× × ×
アカちゃんがコワくなり始めるので、素直に引き下がり、午睡(ごすい)を開始する。
× × ×
「午後3時33分だわ。トリプルスリーね」
少し前に午睡から目覚めていた。身を起こしてデジタルクロックを持ち上げつつ、現在時刻を「トリプルスリー」と表現する。
「トリプルスリーって、野球?」とアカちゃん。
「野球から持ってきた」とわたし。
「野球といえば、もうすぐペナントレースも――」
「アカちゃんお願い。『ペナントレース』はしばらく禁句にして」
「え、エッ!?」
「あ、3時34分になった」
「……!?」
「ごめんなさいね。あなたの言う通り。今日のわたし、お喋りが多すぎね」
「……。自覚と反省があるのは、なによりだと思うけれど」
「けれど?」
「病み上がりで調子の乱れもあるのか、今日の愛ちゃん、いつにもまして止まらなくって……」
「?」
「わたし、ハラハラしてるの」
「!? ハラハラしてるって、どうしてよ!?」
「『お酒飲みたくないの?』って、愛ちゃんがいつ言い出すか――」
「そ、それはない!! それはないから!!! そんなこと言い出したら、中学生以来の友情にヒビが入っちゃうでしょう!?!?」
「――ふふっ。」
「あ、あ、アカちゃんっ。繰り返すけど、いくらあなたが無類のお酒好きでも、わきまえてるところはわきまえてるんだから、わたし……!」
「愛ちゃん。」
「……なに」
「あなたがそうやってテンパってる姿を見るのが大好きなのよ、わたしは」
「……体温、上がっちゃうんですけど」