【愛の◯◯】モスグリーン的なハンバーガーショップにて

 

ワタシの名前は仰木(おおぎ)ひたき。

高校3年生だ。

泉学園という学校に通学している。

部活は放送部。

そして今のところ、部長職ということになっている。

部長という肩書きなんだが、夏休みが終わった時点で出場するコンテストなどは粗方(あらかた)終わっており、そろそろ部長という看板を背負うのもやめたほうが良いんではないかと思ったりもしているのだ。

つまり、引き継ぐタイミング――これが問題なんだな。

そもそも『だれに』部長を引き継ぐのかという話ではあるんだが。

ワタシの見立てでは――。

おっと。

先を急ぎ過ぎた。

 

× × ×

 

放課後。

校舎の外を散歩していると、良く知っている男子生徒の姿が眼に入ってきた。

同級生の磯部公誠(いそべ きみまさ)である。

野球ファンなら『あれっ?』と思ったかもしれないが、元・プロ野球選手の礒部公一(いそべ こういち)と漢字1文字違いの名前である。

もっとも礒部公一さんとワタシの同級生男子・礒部公誠の間にはなんの接点も無い。

当たり前だ。

ブログなんだし、なによりフィクションなんだから。

 

おっと、脱線が過ぎた。

ワタシは野球少年でもなんでもない磯部に片手を上げて、気付かせた。

その手を軽く振ったら、磯部がワタシのほうに向かってきて、

「仰木。ぶらぶらしてんな、おまえも」

「そっくりそのままコトバを返すぞ。オマエだってヒマそうじゃないか」

「あはは」

磯部はクラブ活動を掛け持ちしているんだが、メインは「情報処理部」である。

某4コマ漫画原作アニメのおかげで「情報処理部」という部活ネームもだいぶ浸透したんではないか……という見立てもあったりすることであろう。

それはそうとして、最近ワタシは情報処理部での磯部の立ち回りが気になっていたから、

「なあ磯部よ。情報処理部を冷やかしに行きたいんだが」

「え、なんで」

「部の様子が気になるし、オマエの立ち位置も気になるから」

「立ち位置って」と、磯部は苦笑。

「一緒に行ってくれないか? 情報処理部のコンピュータールームまで」とお願いするワタシ。

しかし。

しかし磯部は、「コンピューターも情報処理も捨てがたいんだが」と苦笑しつつ言ったかと思うと、

「仰木、腹が空(す)かないか?」

 

× × ×

 

スグリーン的なハンバーガーショップに来ている。

ワタシが『とびきり和風ハンバーガー』的なモノとアイスコーヒーだけを頼む一方で、

モスバーガー

・テリヤキバーガー

・ナゲット5ピース

・オニポテ

を立て続けに頼んだ磯部。

極めつけはメロンソーダのLサイズである。

 

「男子ってこの時間帯からそんなに腹が空いてしまうのか?」

向かい合いの磯部のトレーを見つめながらワタシは言う。

「空いてしまうんだよ」

「だけど、運動系クラブには所属してないだろ、オマエ」

「かんけーない」

「そうなのか……?」

「若いから、代謝がすごいんだと思う」

「ずいぶんとアヤフヤな自己分析だな」

「へへへ」

とリアクションして、磯部はモスバーガーにかぶりつく。

 

× × ×

 

「しかし、オマエも大枚(たいまい)をはたいたものだな」

「大枚はたく? ……ああ、今回の出費の出どころが仰木は気になってるのな」

「気になる。気になるし、さらに気になるのは――」

「?」

「オマエのほっぺたにテリヤキソースが付いてるというコトだ」

「あーっ、悪い」

ソースを拭いてから磯部は、

「貯金を崩したのさ」

「ふうん」

貯金、か。

ワタシは決して「宵越しのカネは持たない」というタイプではなく、むしろこまめに貯金箱に硬貨を投入する堅実なタイプのほうだ。

余談だが、ワタシ所有の貯金箱は白ウサギをモチーフにしたとっても可愛らしいフォルムの貯金箱であり、自分自身のイメージが崩れてしまうので、放送部の下級生には特に見せたくないアイテムである。

「仰木ってさ、実家が太そうだよな」

やや唐突に磯部が訊いてきた。

ワタシは答えず、じんわりと磯部の顔面を眺める。

それからワタシは、制服の蝶ネクタイの上部を左手でポン、と叩き、余裕の表情を磯部に見せつけながら、

「まあ、ワタシと比べたら、磯部は庶民かもな~~!」

と敢えて言ってみる。

微笑(わら)いつつ、

「あ、うぜえ」

と磯部。

「うざくて悪かった」

すんなりと詫びるワタシ。

「ま、探りはしないけど。仰木の実家の場所探るとか、ストーキングになっちまうし」

「だな。卒業を前に退学処分だとか、泣くに泣けないしな」

だけども、

「ただ、お望みとあらば、住所を開示しても構わないが」

と、敢えて敢えてワタシは揺さぶってみる。

「エッ」

咥えようとしたストローから口を離す磯部。

「それはなんの冗談だよ」

「さあなあ、どこまで冗談だろうなあ」

「仰木、おのれも『からかいたがり』だよな」

別に?

 

磯部がメロンソーダLサイズを完飲した。

完飲した途端、なんだか改まったような表情になる。

ので、少しだけの戸惑いがワタシに産まれてくる。

どうしたんだ、磯部……?

いきなり改まれると、コッチは困惑するんだぞ。

「おれさぁ」

磯部は、

「勝手に予想してて」

「……なにを?」

「放送部の次期部長。おまえが部長職をだれに譲り渡すのかって話」

「そんな予想を……」

若干視線が下向きになってしまっているワタシは、

「……オマエの本命は?」

「本命は尾石さん。尾石素子(おいし もとこ)さん」

ほ、ほほー。

ワタシと気が合うじゃないか、磯部。

「尾石さんが仰木とやり取りしてるとこ、割りに目撃してるんだけど」

「え、マジか!?」

「ストーキングとかそういうのじゃないぞ」

「……いいから。ストーキングで引っ張るのは」

「――尾石さんってさ。」

「んんん?」

「尾石さんって。彼女って――カワイイよな

 

ちょちょい待てっ、磯部!?

磯部!?!?

椅子席の反対だから良かったものの……ワタシが椅子席のほうに座ってたら、椅子から転げ落ちてたぞ!?!?