例によって、サークル部屋で女子にイジめられた……。
先輩の八木八重子さん、後輩の朝日リリカさん、ふたりから同時に集中砲火みたいな口撃(こうげき)が来て。
どんな内容のコトバを浴びせられたのかは、ぼく自身の都合で割愛する。
それにしても。
八木さんもリリカさんも。
どうしてそんなに攻撃的なんですかね?
ぼくに向かって攻撃的じゃない時が無いじゃないですかっ。
あれですか、サディストですか。
……泣きたくなってくるのを懸命にガマンして、ジャズピアノ曲を流すことで自分自身を癒やしていた。
× × ×
1950年代60年代に活躍したジャズピアニストの演奏は良いものだ。
古いのに、いや、古いからこそ、ぼくのカラダに染み込んでくる。
このアルバムが終わったら中華料理でも食べに行こう……そう思って、眼を閉じつつ優しいピアノの音色に耳を傾けていた。
しかし。
サークル部屋をノックする音がジャズピアノの邪魔をしてきたのである。
今度はだれなんだ、ここにやって来たのは。
イヤな予感しかしない。イヤな事象が発生する確率95%だ。
苛立ってしまう。ぼくらしくないとは分かっていても苛立ってしまう。
ふたたびノック音。
音を立てて椅子から立ち上がるぼく。
× × ×
東本梢(ひがしもと こずえ)さんだった。
彼女のプロフィールの詳細は割愛するが、20代後半なのにぼくと同学年の女子大学生だという点は強調しておく。
「なんなんですか? 御用があるのなら手短に」
ボヤくように言うと、確か身長166センチか7センチの梢さんがまっすぐにぼくに迫ってきて、
「ムラサキ君は今日もムラサキ君だね。ショタコンな女子が喜びそうな外見だ」
「だ、だから、御用件を!!」
「どうして急かすの?」
「お昼ごはんを食べに行きたいんですよっ」
「お昼ごはんってどんな?」
「……中華料理」
「中華料理! 良かったらお店の名前と場所を教えてくれないかな」
「ついてきたりはしないですよね? 行くなら独りで行ってください」
頭に鈍痛を感じる……。梢さん、用件を言ってこようとしない。まったく言ってこようとしない。
強引なようだが、彼女に対し受動的ではダメだと思い、
「『西日本研究会』のPRがしたくて来たんですよね!? そうでしょう!?」
と押す。
押し切りたい気持ちがあったから、ぼくのボーイソプラノの声が派手に上ずってしまった。
「ピンポーン、正解」
答える彼女に、
「1分間しかPRタイムはあげませんよ」
とやり返す。
「ムラサキ君厳しい」
「今この時から厳しくします。女子にやられっぱなしの自分から脱却したいんです」
「うおぉ」
そんなリアクションは止めて頂けないでしょうか。
スマホを持ってタイマーアプリを開く。
それから、
「1分間測りますから」
と言い、
「ほら、始めてくださいよ、PR」
と催促する。
そしたら、梢さんは、
「分かったよ、始めるよ。
個人的に、西日本を考える上で、3つの柱を設定してるのよ、私。
3つの柱ってのはね。
『鉄道』。
『放送』。
『小売』。
京阪電車とか、サンテレビとか、ゆめタウンとか、そういったのを考え始めたら、もう停まらない。胸がときめくの。
今、京阪電車とサンテレビとゆめタウンの名前出したけど、せっかくだから、この3つについて説明してあげるね。
ムラサキ君。
きみ、京阪電車の『テレビカー』って言われても分かんないよね?
ゆめタウンなんていう商業施設のことも知識ゼロでしょ?
だから教えてあげる。お姉さんの講釈、どうか聴いてちょうだいよ。
まず、京阪電車の『テレビカー』なんだけど、実はもうテレビカー走ってないの。引退したの。なぜかというに――」
中華料理が……永遠に食べられない。