体育館へと向かう道の途中である。
ボクの前を行くのは、日高ヒナと水谷ソラ。
楽しそうにお喋りしながら女子コンビは歩いている。
6月がもうすぐ終わる。
日高も水谷も、進路はどうするのだろうか。
大学受験をするとして、いったいどんな志望校を――。
『会津くん、歩くの遅いよ』
振り向いて言ってきたのは、水谷のほうだった。
「すまない。ちょっと考えごとをしていた」
「なに? 考えごとって」
「進路のことを」
「……進路、か。」
ちょっと待て。
水谷。
どうしてそんな表情になるのか。
ボクが「進路」というワードを出した途端に、表情のシリアスみが3倍増しになったぞ!?
× × ×
「口じゃなくて足を動かしてよ、会津くん。これだから会津くんは……」
お次は日高に怒られた。
日高。
君も大学受験するんだろう?
君は、ボクたち3年生トリオの中でいちばん成績が良い。
いったいどこを受験するのか、気になっているということを否定できないんだが。
まあ、今は、いいか。
「悪かった日高。口を慎む」
「え……。会津くんが、なんか素直」
『素直で悪いか?』と小さく呟いてみる。
日高には聞こえなかったようだ。
女子ふたりに近寄り、日高のほうを向き、
「ほら。『足を動かしてよ』って言ったのは君じゃないか、日高。スローペースになっちゃ困るんだが」
と言い、
「部長が立ち遅れてどうする」
と、たしなめる。
× × ×
「さて――体育館に来たわけだが」
そう言って、ボクは扉の前に立つ。
「どういう分担にするんだ? バレー部とバスケ部の取材をするんだったよな?」
そう言ってから、隣り合う日高&水谷に振り向いてみる。
「あたしは、バレー部」と日高。
「わたしは、バスケ部」と水谷。
ふむ……。
「ボクがバレー部とバスケ部のどっちに行くか、それが問題というわけか」
バレー・オア・バスケだな。
「会津くんが決めてよ」と日高。
「2分以内に決断して?」と水谷。
ボクは水谷に、
「2分以内は短いんじゃないのか」
と言うも、水谷は顔をプイ、と逸らしてしまう。
なぜ逸らした。
機嫌は損なわれないが、困惑する。
右サイドの日高に顔を向けるボク。
「なーに?? ソラちゃんが怒っちゃったから、あたしに助けを求めるってゆーの??」
「ち……違う。違うから」
「信じられないほどデリカシー無いよね、会津くんって」
「はあ??」
「あたしが『教育』してあげよーか」
意味分からん。
日高は前のめり気味に、
「あたしと一緒にバレー部のほうに来てよ。『教育』するから」
だから『教育』ってなんじゃいな……!
「……ヒナちゃんのほうについてくの? 会津くんは」
水谷がいきなり言った。
視線はボクに据えられている。
もちろん、ボクと日高は驚いた。
水谷の眼が、なんというか、弱々しい……。
いきなりの水谷の異変によって、体育館の手前で、時間が静止する。