あっ。どうも。
スポーツ新聞部の会津です。
ご無沙汰しております。
スポーツ新聞部……なかば放置されていた感もあったんですが、大丈夫、文化祭が終わって以降の約2か月間も、キチンと活動しておりました。
みんな元気です。
加賀部長も。
日高も。
水谷も。
本宮も。
……日高と水谷に関しては、元気すぎるという面をどうしても否定できないのが、ツラいところでありますが。
ともかく、5人で校内スポーツ新聞を作り続けています。
× × ×
気になるのは、加賀部長の今後。
3年の11月末ともなれば、本格的受験シーズンのはず。
受験だけが全てではない……にしても、部長に大学進学の意向があることは確かで。
彼も切羽詰まってるんだろうか。
どうなんだろう。
窓に横目を向けて加賀部長がボンヤリとしている。
窓に横目を向けてボンヤリとしている加賀部長を見ることが増えた気がする。
窓に横目を向けてボンヤリとしている時間が増えるのと反比例するかのように、将棋盤とニラメッコする時間が減ってきている…気がする。
『会津くん、加賀部長に見とれてるの?』
日高の声。
見とれてるってなんだよ、日高。
「また君は、ボクを面白がるみたいに……」
「面白がってなんかないよ」
嘘つけ。
「嘘つけ、日高。ボクは、君や水谷のオモチャではないんだ」
「オモチャ?! そんなふうになんか思ってないもん」
「…本音か?? それは」
疑(うたぐ)るボクに向け、悲しげな表情を見せつける日高。
…しかし、例によって、悲しげな表情からニヤニヤ笑いへと、日高の顔面は変化していくのである…。
「ねえねえ、話はまるっきり変わるんだけどさ、」
言いかける日高に、
「期末テストのことか?」
とボク。
「えええっ!??! なんでわかったの、あたしの言いたかったこと」
うるせえよ。
「それぐらいは先読みできる。
それと、日高はもう少し、声のボリュームを落とせ」
むーーっ、とむくれ顔に日高の顔は変化する。
百面相…とはいかないまでも、表情豊かな日高。
たまには、ホメてやっても…という思いが出てきて、
「せっかく――君は、表情豊かなんだから。表情豊かだっていう長所を、大声とかの短所でもって台無しにしてしまうのは、本当にもったいないと思うぞ」
「えっ……。会津くん、いま、長所、って」
「言ったよ、『長所』って。
あのな。
日高の長所は、ひとつだけじゃない。
いろいろあると思うぞ……例えば、学業成績優秀なところとか」
なぜかうつむく日高。
うつむく意味がわからない。
長所を言ってやったっていうのに。
左肩に指が触れる感覚。
水谷だった。
水谷がちょんちょん、と、ボクの肩を人差し指で突っついてきたのだ。
振り向いてボクは、
「なんだ? 水谷」
と訊く。
水谷は答える。
「サービス精神は、いいと思う。
でも、サービス精神が、ちょっと旺盛すぎだった」
……。
「……日高へのホメかたが、イマイチだったってことか」
「ご名答」
「……」
「会津くん、さすがにわたしより成績いいだけはある。――もっとも、成績最優秀なのは、ヒナちゃんだけど」
もう一度ボクは、成績最優秀者たる日高ヒナを見る。
席を立つ日高。
ゆるい足取りで活動教室の扉に向かっていく。
「おい、どこへ行く、日高」
「一択だよ、会津くん……。
取材。
あたし、取材に行く」
「……そうか」
ボクの顔に眼を向けようとしてくれない日高。
そのまま教室を出ていくのかと思った。
だが。
「会津くん。
今度……美味しいもの、あげるよ」
日高が、言ってきた。
照れ気味ながらも、ボクと視線を合わせて。
「美味しいものって――やっぱり、お菓子か?」
問うボク。
「――ヒミツだよ。」
答える日高。
× × ×
『なぜ、美味しいものをボクにあげる気になったのか』という疑問を残し、日高は取材に行った。
…ボクに近づいてくる水谷。
満面の笑みで、
「よかったね~~!! 会津くん」
と祝福する水谷。
満面の笑みを崩さず、
「夏祭りでヒナちゃんに奢(おご)ってあげた甲斐、あったね~~!!」
と祝福する水谷。
……夏祭りとか、ずいぶん昔のことを引っ張り出しやがって。