【愛の◯◯】日高を称賛したり、水谷に「お願い」されたり

 

すこぶる機嫌が良さそうに、日高ヒナがPCを操作している。

 

「~~♪」

「鼻歌歌うぐらい上機嫌か、日高は」

ワァッ会津くん

 

いきなり、絶叫。

お願いだから声のボリュームを落としてくれ。

いや、落とせ。命令だ。

今度そんな大声で叫んだら、イエローカードだぞ……!

 

「なんでワナワナ震えてんの?? 会津くん」

「……こころのなかで怒ってたんだ」

「あたしに?」

「決まってるだろっ」

「あー」

「……」

「あたしがオーバーリアクションで叫んだから、怒りのスイッチ入っちゃったかー」

「……」

「ゴメンね~。でも、許して?」

 

笑いながら許しを請うな。

 

× × ×

 

「例によってテレビ欄作りか…。精が出るな」

「ふふん♫」

 

今朝のぶんの校内スポーツ新聞が、日高のとなりの机に置いてあったので、見る。

テレビ欄に注目する。

 

…ふぅむ。

 

「ずいぶんな長文を、君も書くじゃないか」

素早く反応して、

「それ、あたしをホメてくれてるんだよね!?」

と、パーッと顔を輝かせる日高。

「――ただ、ボクのようにテレビ番組に疎い人間には、イメージの湧きづらい番組紹介記事ではあるけれども」

日高は一気にしぼんで、

「なにそれっ、会津くんは、いったいなにが言いたいの」

「要するに――テレビ番組に詳しくない人間にも分かりやすいように、番組紹介記事は書いてほしい」

「……無茶振りみたいに。」

ボクは、しぼむ日高へのフォローとして、

「――だけど、これだけの長い分量を書けるってことは、君に実力が備わっている証だ」

と、認めてやる。

「! ほ……ホメられた、んだよね!? あたし」

「ああ、ホメた。それに――」

「それに?」

「現在(いま)みたいに、テレビ欄を作るためにPCに向かってる君は――なんだか、活き活きしてる。その快活さは――いいと思う。これからも、テレビ欄を、よろしく頼むよ」

 

ボクのほうに日高の視線が凝固される。

 

どうした、日高。

 

ボクは、日高のことを、素直に称賛しただけだぞ?

 

 

…水谷ソラが、ボクの近くに寄ってきた。

会津くん」

「なんだ水谷?」

「取材のお時間だよ」

「え!? 聞いてないが」

「サッカー部に行こうね」

「だから、きょう水谷と取材行きだなんて、初耳――」

会津くーーーん」

「水谷……」

「つべこべ言わない」

 

水谷が……ボクの制服の袖を、半ば強引に掴む。

 

 

× × ×

 

「先週が野球部だったから、今週はサッカー部ってこと」

「にしても……突発的だな」

「かもね」

「お、おい水谷」

 

サッカー部の練習グラウンドまでは、かなりの距離を歩く。

現在(いま)は、その道中。

 

ボクの5メートル先を行っていた水谷が、いきなり静止したから、驚いた。

大げさなほどの身振りでため息を漏らす。

どういう意味の嘆息か。

 

「――ヒナちゃん、嬉しかったんだよ。」

 

 

「日高が、嬉しかった……??」

「鈍いのね」

「ん……」

「さっき、なんで、会津くんをヒナちゃんがあんなに見つめていたか…わからないの??」

「……」

感動してたんだよ、ヒナちゃん…。長い文章を書くチカラとか、テレビ欄制作に向かう活発な姿勢を――会津くんに、認められて。

 

日高が……ボクに認められて……感動……。

 

「ねえ」

水谷の振り返る視線は、ボクの顔に注がれている、気がする。

ヒナちゃんのこと……もっと大事にしてあげなよ

 

日高を……大事に……。

 

……女子の気持ちを分かってあげられる男子に、なってほしい

 

……ボクは、やや下目がちになり、

「デリカシー……とか、そういうのが、もっと有ったほうがいい……ってことか」

「基本、デリカシー欠乏男子だもんね、会津くんは」

「き、キツい言いようだな」

「しょーがないじゃん。事実なんだから」

 

× × ×

 

グラウンドはもう、すぐそこだ。

 

「――楽しい」

 

不意に水谷が「楽しい」とか言い出すから、驚いた。

 

「楽しいな。――こうやって、会津くんを翻弄するのって」

 

翻弄してるって認識だったのかよ。

 

 

……水谷。

『翻弄』の漢字二文字を、手書きできたら……大したものだが。