「利比古」
「なに? お姉ちゃん」
「ここの印象は、どう?」
「素敵なカフェだと思うよ。雰囲気いいし、コーヒーもケーキも美味しいし」
「気に入ってくれたみたいね。流石はわたしの弟」
「まーた、そんなこと言う」
「この『メルカド』は、中学高校の6年間、わたしがいちばんお世話になった喫茶店で」
「そうみたいだね」
「週の5日間、学校帰りに通い通(どお)しだったこともあったわ」
「月曜から金曜まで必ず来てたってことでしょ。パーフェクトゲームだね」
「店員さんはみんなわたしのことを熟知してるし、わたしも店員さんみんなのことを熟知してる」
「常連の中の常連ってわけか」
「ふふふ☆」
× × ×
「2杯目も飲んじゃった。もう1杯頼んじゃおうかしら」
「どんだけ飲むの。代金は別々だよ?」
「別々なことぐらい承知の上よ」
「コーヒーホリックだなあ」
「……なにそれ」
「お姉ちゃんお姉ちゃん、スネないスネない」
「利比古、店員さんを呼んでよ」
「本当に3杯目を注文するの?」
「するに決まってるでしょ、ここまで来たら」
「ここまでって、どこまで」
「……早く呼んでっ」
× × ×
「お姉ちゃん。母校には立ち寄らなくてもいいの? このお店から歩いてすぐの所にあるでしょ?」
「……」
「な、なに、その不可思議な笑顔は」
「あんた、わたしの意図が読み取れないみたいね」
「だ、だって、お姉ちゃんのスマイルが不可思議なんだもん」
「――今日は、行かない。」
「どうして??」
「あのね。……まだ、『その時』じゃないって思ってて」
「……?」
「やっぱり利比古って、現代文のテストを解くのとかが苦手なタイプなのね」
「そりゃ……苦手だけど。現代文テストの平均点97点的なお姉ちゃんみたいなわけにはいかないけど」
「『97点』ってなによぉ、『97点』って」
「からかうような笑顔も……程々にね」
× × ×
「ねーねー利比古、近況報告してよー」
「ぼく、こまめに報告してるつもりなんだけどな」
「音声通話やビデオ通話じゃ分かんないことだってあるでしょ?」
「ん……」
「生(ナマ)のあんたが知りたいのよぉ」
「……またそんな顔して。下品というか、いかがわしいというか……そんな言葉づかいで」
「わ・る・い!?」
「直接会って話を聴くのがいちばん良いってことなんでしょ?? 要するに」
「そうよ」
「じゃあ、大学のことを話すよ」
「ウキウキしちゃうな~~」
「な、なにが」
「大学でのあんたの◯◯や◯◯が、白日の下に晒されていくのが……」
「お、お姉ちゃん!?」
「なによ」
「『白日の下に晒されていく』って言い回し、なんかヘンじゃない!? 日本語として違和感があるよ」
「そうかしら。利比古が言うのなら、そうなのかもしれないけど」
「お姉ちゃんらしくないよ」
「――で、あんたは『CM研』っていうサークルに入会したわけで」
「す、すぐに話の流れをぶった斬るし!」
「フフッ」
「イヤミな笑いのリアクションもしてくるし……!」
「わたしを自主制作CMの出演者にするとか、そういう発想は持ってないのかしら??」
「出たがらないでよ!?」
「コラコラ、喫茶店の中なんだから」