「ヤッホー、本宮(もとみや)さん」
「こんにちは、椛島(かばしま)先生」
× × ×
「本宮さん、あなたひとり?」
「はい。他の部員はみんな取材に」
「アクティブね」
「ヒナ先輩とオンちゃんは野球部に、ソラ先輩と会津先輩はサッカー部に」
「役割分担がちゃんとできてるのね。――どうかしら、最近のスポーツ新聞部の様子は?」
「絶好調だと思います」
「まあ、発行されない日が無いんだもんねえ」
「そうですね。毎日配ってます」
「わたし、最近の記事の中で良かったと思う記事のベスト5を考えたのよ」
「エッ!? ベスト5ですか……!!」
「順に言って欲しいかしら」
「もしかして、わたしが書いた記事も……?」
「入ってるわよ。本宮さんの記事は、第3位」
「ど、銅メダルもらっちゃった」
「そうね、銅メダルね」
「いったいなんの記事が良かったんですか?」
「それは――」
× × ×
「やっぱり、自分の得意分野で記事を書くと、強い印象を残すことができるってことなんでしょうか」
「まあそうよね。あなたの『ヨーロッパのバレーボール事情』は、あなたがバレーボール経験者であったからこそ、とても印象的な記事になったんだと思うわ」
「先生。わたし……」
「どうしたの?」
「わたし……最近、自分の過去に素直になることができるようになって」
「バレーボールをやっていたことに?」
「そうです。
……。
後押しをしてくれた、ヒトが居て」
「後押し?? だれかしら」
「……加賀先輩が。」
「加賀くんが!?」
「そ、そんなに意外ですか、先生」
「だってあの加賀くんでしょ」
「お、教え子をバカにしちゃダメだと思うんですけど」
「彼が、あなたの『恩人』ってこと!?」
「……はい。恩人、ですね」
「いったいどんなイベントが発生したの、あなたと加賀くんの間に」
「それは……、それは……ですね、」
「あっ、本宮さん、カワイイ☆」
× × ×
「なんだかあなたと加賀くん、『いい感じ』ね」
「教師らしからぬ眼つきになってませんか……??」
「加賀くんが卒業してから、連絡、取り合ってる!?」
「ど、どーして顔をそんなに近づけて……」
× × ×
「――コホン」
「? どうしたのよ本宮さん。そんなわざとらしい咳払いなんかして」
「わざとらしく見えますよね。椛島先生は演劇経験者だから、見る眼が鋭い」
「わたしじゃなくても、わざとらしい咳払いに見えると思うけど」
「――あのですね。」
「え?」
「二宮先生。
英語の二宮先生が、近頃ますますくたびれ加減で。
やはり、30代半ばに差し掛かっても『いいヒト』が居ないっていう残酷な事実が――彼を、二宮先生を、くたびれモードに導いていると、そう思ってて」
「……どうして、いきなり、二宮先生のことを……?!」
「あれっ」
「……」
「椛島先生こそ、どーして『二宮先生』と言った途端に、そんな慌てふためいた表情に?」
「わ、わ、わたしは、慌てふためいてないわよ」
「自己申告するから、説得力が無くなっちゃう」
「!??!」
「演技派女優の真逆になっちゃってるじゃないですか、先生」
「もとみやさん……!!」
× × ×
「そろそろ落ち着きましょーよ、先生♫」
「お、落ち着いてるわよっ」
「……」
「そのジト目の意味は!?」
「話題を換えます」
「……どうぞ」
「そ、そのとーりだけど」
「学芸大のときのことが、懐かしくなりませんか」
「んーっ……」
「『卒業したのが何年前』とか、言っちゃダメですよね。デリケートなお年頃なんだもの」
「そんなキャラだった……?? 本宮さんって」