はい。
スポーツ新聞部2年の会津です。
はい。
× × ×
年度が変わって、スポーツ新聞部も新体制になった。
戸部あすか先輩が卒業して、加賀真裕(かが まさひろ)先輩が部長職を引き継いだ。
加賀先輩が部長に昇格したので、副部長は「空き」状態だ。
2年生がボクを含め3人居るのだが、ひとまずのところは、副部長を置かないことになった。
……戸部先輩が言うには、『2年生メンバーは3人全員が副部長みたいなものだよ!!』ということらしいが。
3人がかりで、加賀部長を全力でサポートしていけ……というニュアンスのことばだと感じた。
× × ×
「――部長になりたてのおれなわけだが」
加賀先輩は神妙に、
「至らない点は、いっぱいあると思う。……あすかさんにしょっちゅう説教をかまされたりしていたのが、その証拠だ」
目線はいささか下向きで、
「頼りない新部長だけど……ガマンしてほしい」
「大丈夫ですよ」
白板を背に立っている加賀先輩に向かって、ボクは言う。
「加賀先輩は、頼りなくなんかありません」
「本気で言ってるのか……会津」
はい。本気です。
日高ヒナが、「加賀先輩がいないスポーツ新聞部なんて考えられない。必要不可欠だと思います」と言い、
水谷ソラも、「先輩は、要所要所で部を支えてきたじゃないですか! じゅうぶん活躍してるんだから、卑屈になることなんかありませんよ」と言う。
「おまえら……!」
目線が上がる加賀先輩。
感極まる勢い。
いいムードだな……と思っていたら、活動教室の入り口に、ひとの気配を感じた。
不器用なノック音が響く。
× × ×
入学したばかりの1年生だった。
この場所までわざわざやって来たということは……入部希望者で間違いないだろう。
1年生。女子。
なにより目を引くのは、高い身長だ。
「ええっと……おまえ、入部希望なのか?」
加賀先輩が控え目に訊く。
長身の彼女は、首を縦に振り、
「はい。この部活に入りたいと思って――来ました」
「やったあああああ!! 女の子、増える!!!」
絶叫したのは、もちろん日高ヒナである。
やかましいぞ。
「ねえねえ、名前!! とりあえず、名前教えてほしいよ」
日高のテンションはなんなんだよ。
新入生を怯えさせるような勢いは、自重してくれよ…。
「…わかりました」
日高の申し出を受け入れて、じぶんの名前を白板に彼女は縦書きする。
『本宮 なつき』
「本宮(もとみや)さん、か。
ようこそ、スポーツ新聞部へ。
ボクは、2年の会津。よろしく」
「『なつきちゃん』って呼ぶね。いまから」
これだから日高は……!!
「日高っ。本宮さんを戸惑わせるな」
「会津くんは黙っててよ」
「いいや黙らない」
「なに!? 怒ってんの!? 怒ってんの会津くん」
日高がやかましすぎる……。
日高に加勢して、水谷が、
「わたしも、『なつきちゃん』って呼ぶね。…ところで、なつきちゃんは、もしかしたら、バレーボールの経験があったりする?」
「…どうして、ピンポイントでバレーボールなんだ…水谷」
「女子の直感に決まってるでしょ、会津くん」
水谷はニヤリとしながら、
「女子の直感は一味違うの」
「……当たりです。わたし、中学までバレー部だったんです」
「ほら! わたしの直感、当たったじゃん」
水谷の存在まで厄介になってきた……。
「なつきちゃん、身長、170はあるよね??」
こんどは、日高が、本宮さんに迫っていく。
「ある! ぜったいあるよ、170」
本宮さんと至近距離で、
「でしょ?」
と確かめる日高。
「はい…あります」
答える本宮さん。
「ひょっとしたら、会津くんより高いんじゃないのかなあ!?」
騒ぎ立てる日高。
少しは落ち着けないのか……と呆れていたら、本宮さんが加賀先輩のほうを向いて、まじまじと視線を送り始めた。
「お、おい、どうしたんだ」
うろたえる加賀先輩などお構いなしに、軽く息を吸ったかと思うと、
「わたし。
わたし、実は、去年、加賀さんと会っているんです」
!?
本宮さんの……驚きの告白。
加賀先輩の眼が……かつてなく大きく見開かれている……。