本宮(もとみや)なつき。
スポーツ新聞部の新入部員。
彼女が中学生のとき、現・部長の加賀先輩と面識があったというから、驚いた。
面識があったといっても、彼女のほうが一方的に、加賀先輩の顔を知っていた、というのが実状らしい。
高校・中学合同で、バレーボールの練習試合があった。
前・部長の戸部あすか先輩とともに、その会場に加賀先輩は赴いていた。
目的は新聞の配布。
バレーボール部の選手として会場に来ていた中学時代の本宮に、新聞を配っていた加賀先輩の姿が、強烈な印象を残したらしい。
× × ×
本宮とふたりで、剣道部の取材に向かっている。
並んで歩きながら、
「慣れてきたか? 部には」
と本宮に問う。
「だいぶ」
と答える本宮。
「ヒナさんもソラさんも親切ですし」
…それはよかったな。
「あっ、もちろん、会津さんだって、親切だと思いますよ?」
……。
「ボクまで無理に持ち上げなくたっていい」
「お、お世辞を言ったんじゃないんです。会津さんはホントに親切だし、仕事ぶりもテキパキしてて……」
ボクは、眼鏡の位置を調節する。
「な、なんか、ごめんなさいっ」
「謝るな、本宮」
「でもっ」
「…加賀先輩は? 加賀先輩は、ボクなんかよりも、遥かに人間ができていると思うんだが」
「……」
「どうして黙る。部長を信頼しないで、どうする」
当たりが、強すぎたか。
部下を叱責する上司みたいになってしまった。
『なつきちゃんを会津くんがイジメた~~』みたいに、日高に言われそうで、怖い。
立て直そうとして、
「強く言い過ぎたな……すまない。高校に入りたての人間に対して、酷な態度を取ってしまった」
と謝罪する。
苦笑いの本宮は、
「いえいえ。いいんですよ、会津さん」
と言ってくれる。
「――マジメなんですね、会津さんって」
とも。
そういう認識なのか。
× × ×
取材は終わった。剣道場から出た。
「仲いいんですか? 剣道部のひとと」
「仲良しとは、ちょっと違うと思う。何回も取材に行っているから、あの場にボクが馴染んでしまっているんだ」
「わたしには――仲良しに見えましたけど」
「あの場限りの関わりだよ。だれひとり、連絡先も知らない」
「スマホに連絡先が入ってなくても、仲良しは仲良しですよ」
「本宮……」
「なんですか?」
「剣道部を、甘く見るな」
「それは、どういう」
「甘く見ていると、道着を着せられるぞ」
「道着?」
「だれだって、痛い思いはしたくないはずだ。…君だってそうだろ」
本宮の反応が鈍い。
警告しているつもりなんだが。
先が少し思いやられる…。
× × ×
「もう1箇所ぐらい取材できる時間がある。どうする? 本宮」
「会津さんにおまかせします」
「そうか。だったら――本宮の興味がありそうな部活に行くか」
――言ったとたん。
長身の本宮が、スッと振り向いてきて、
「バレーボール部とか……言いませんよね!?」
とシリアスな声で、ボクに迫ってきた……。
迫力に押されつつボクは、
「……どうしてだ?? むしろ、君はバレーボール経験者なんだから、興味を惹かれまくりなんじゃないのか??」
と言うも、
「逆です」
と即座に断言される。
もしや……。
彼女の過去の、暗い部分に、触れてしまったのでは……!?
× × ×
快晴の空を見上げ、本宮なつきは、
「会津さん。
バレーボールって。
バレーボールって……いったい、なんなんでしょうね?」
と、問いを出す。
答えを出せるほうが怖い……そんな、問い。