夏休みは短い。
気付けば、もうすぐ終わってしまう。
× × ×
『夏休みが終わったらスポーツ新聞部をやめる』
わたしはそう言っていた。
発言を撤回することもないまま夏休みの終わりを迎えようとしている。
正直、
『ほんとにこれでよかったのかな……』
という思いを捨てきれていない。
迷っている。
だけど、カレンダーは容赦なく8月の終わりに突き進んでいく。
そして。
さらに。
実を言えば。
スポーツ新聞部をやめる云々よりも、もっと切実なことが、わたしに絶えず襲いかかって来ていて。
× × ×
四六時中会津くんのことを考えている。
どんなことをしていても、ひとりでに会津くんが脳裏に浮かぶ。
『出て行ってよ』
って思っても出て行かない。
会津くんがわたしの中にとどまり続けている。
そういう状態になってしまっている理由を考えようとし始めるたびにカラダがゾワゾワする。
時には鼓動が激しくなって胸を押さえる。
× × ×
また会津くんのイメージが浮かんできてしまった。
振り払うためにカレンダーの8月の日付に一気に丸(マル)をつけていく。
でもそんなことをしたって振り払えないのは明白。
丸をつけ終わった赤ペンを握りしめたまま固まってしまう。
窓を見る。
小鳥が窓のほうに近づいてきている。
些細なことに敏感なわたしは、近づいてくる小鳥から逃げたくてカーテンを閉める。
うつむいて椅子の上で丸まってしまう。
× × ×
……やがてスマートフォンがブルッ、と震える音が耳に届く。
椅子で丸まるのをやめて、スマホに緩く手を伸ばす。
ロックを解除して通知を確認する。
そしたら。
『加賀真裕』
という名前が眼に飛び込んできた……!!
加賀先輩。
前代のスポーツ新聞部部長。
でも、どうして。
どうして、わたしに。
× × ×
『通話でお願いします』と加賀先輩に送信したら、すぐに着信が来た。
「……よろしくお願いします」
「ああ」
「えっと……先輩、『おまえ大丈夫か』って、わたしのこと気づかうメッセージを送ってくれましたけど」
「おう」
「どういった経緯で??」
「本宮(もとみや)だ」
なつきちゃんが――。
「水谷がずっとおかしいってコトを、おれのスマホにあいつが伝えてきて」
「じゃあ、なつきちゃん経由で」
「だよ」
いろいろな感情が混ざって、話すコトバを見失ってしまう。
「本宮に信頼されすぎな感じで、なんか変な気分でもあるんだが」
加賀先輩はいったんコトバを切って、それから、
「おれなんかで良かったら、相談に乗るが」
相談……。
加賀先輩が?
わたしの、相談に??
「同級生部員には、どうせ打ち明けにくいだろうし」
確かに……。
「受験勉強1日分を潰せるぐらいの余裕はあるから」
「……」
「どうだ?」
「……」
「おーい、水谷ー」
若干戸惑っているけれど。
――気付いたら、息をすうっと吸っていて。
それから、わたしは。
「わかりました。
会いましょう、加賀先輩。
人生相談、先輩にぶつけさせてください」