【愛の◯◯】KHKを救うジャンケンポン

 

「羽田くん、進捗はどうなんですか?」

「え? ――ああ、KHKの番組の進捗か」

「そうです。制作がずいぶんと長引いていますよね」

「長引いてはいるけど、取材はだいたい終わったよ。先週の金曜日、コンピューター部に行ってきた。クラブ活動取材は、コンピューター部で終わり」

「終わったあとが問題なんじゃないですか」

 

ぐ…。

猪熊さん、いつものごとく、厳しい…。

 

「上手く、まとまりを付けないといけないですよね? インタビューして、それで終わりだとか、思ってませんよね??」

「……まとまり、か」

「そうです。まとまりです。取材した内容を、どういうふうに構成するのか。……問われますよ、羽田くんの腕前が」

 

厳しく詰められているみたいだけれど、猪熊さんなりの「助言」なんだと思って……受け止める。

そうだ。ここからが大事だ。

取材しただけなんだから……全体の工程の3割ぐらいにしか達していないんだ。

 

構成。

編集。

 

大変な作業が――待ち受けている。

 

 

「素朴な疑問なんだけどさあ」

こんどは、小路さんが、横から、

「ナレーション、どーするの??」

 

ぐぐっ。

 

「す、鋭いね……さすがは小路さん」

「別に鋭くなんかないよ。羽田くんが、ナレーションも担当するわけ? 羽田くん、ナレーションなんて、ズブの素人でしょうに」

「小路さん……」

「なぁに」

「背に腹は代えられない、ってことばがあって」

「知ってる」

「付け焼き刃の、ナレーションかもしれないけど……だれかがやらねばならない。そして、やらねばならないのは、ぼくなんだ」

「フーム」

小路さんは、サラダせんべいの袋を破って、

「…力(りき)みすぎてない?」

「…ぼくが、力(りき)んでる?」

「だって、現在(いま)の羽田くん、表情カタいし」

「…どうしてそう見えるのかな」

「いや、だれだってそう見えるって。――せっかく二枚目フェイスなのに、もったいないよね」

 

なにも言えなくなるぼく…。

 

「ねーねーっ、亜弥だって、そんなふうに見えてるでしょ? 羽田くんの顔」

爽健美茶を飲んでいた猪熊さんは、ペットボトルをことり、と置き、

ノーコメントです

と…きっぱりと、小路さんに返答する。

 

「…逃げたな、亜弥」

「ノーコメントですから」

「それを逃げっていうんだよ、亜弥ちゃーん」

 

小路さんを冷たい眼で見たかと思うと、ぼくの方角に眼を転じ、

「あいも変わらずヨーコはどうしようもないですけど、『ナレーションをどうするのか』という指摘が的を射ているのは、認めざるを得ません」

そう言って、じっとりと…ぼくに視線を注いでくる。

威圧感のある視線。

「――新入生の勧誘に失敗したことが、尾を引いていますよね」

威圧感のある視線とともに、痛烈な指摘。

「ひとりでも、新しい子がKHKに入ってくれていたならば、ナレーションの問題含め、番組制作はずっと円滑に進行していたはずなのに」

ううっ。

「新入生勧誘の旬は過ぎてしまいました。いまさら、新しい『戦力』に期待しても、ないものねだりというもの――わかっていますよね?! 羽田くん」

うううっ……。

「わたしはあくまで放送部部長ですので、KHKのことに責任は負えません。責任を負うのは、羽田くん――あなたなんですよ」

 

胃が、

すっごく痛い。

 

「亜弥ぁ、羽田くんを追い詰めすぎだよお」

 

こ、小路さんっ。

助け舟……というやつか?

 

「1回ぐらい。

 1回ぐらい、責任を負ってあげても――いいんじゃないの?」

 

「よ、ヨーコ……それはどういう意味ですか」

 

突然の提案に驚きの猪熊さん。

 

「亜弥。ジャンケンしよーよ

!?

 

突拍子もない小路さん発言に驚愕の猪熊さん。

それはそうだ。

どういう文脈で、ジャンケンが出てくるというのか?

 

笑顔の小路さんは、

「ジャンケンで『勝った』ほうが、KHK番組のナレーションを担当してあげるの」

「ちょ…ちょっと待ってください、ヨーコ」

慌てる猪熊さんだったが、

「だーめ」

と拒絶の小路さん。

「『勝てば』いいんだよ、亜弥」

「で、できませんっ、わたしっ」

「え~~っ」

「ヨーコ……」

「ジャンケン、してくれたら、亜弥の宿題1週間分、代わりにわたしがやったげるんだけどなーっ

 

 

「――その気になった?」

 

 

目的のためには手段を選ばない…とは、

小路さんにこそ、当てはまるんだろう。

 

エグいけど。