「きみたちのおかげで、番組が無事に出来上がったよ。ありがとう」
猪熊さんと小路さんに、感謝する。
「どういたしまして」と猪熊さん。
「わたしが貢献してたかどうかは微妙だけどね」と小路さん。
「いや……小路さんだって、貢献してくれてたと思うよ」とぼくはフォローする。
「具体的には?」と小路さん。
返事に詰まってしまう。
……詰まりながらも、
「お、お菓子とか。いっぱい、お菓子をぼくにくれたでしょ??」
と、小路さんの『貢献』をたたえるぼく。
小路さんは苦笑して、
「無理にわたしをフォローしなくたっていいんだよ」
と言って、皿に大量に盛られたとんがりコーンに手を伸ばし、
「亜弥のほうが、断然貢献してたよ。――なんてたって、ナレーションの大役だったんだもの」
と言い、とんがりコーンをぽりぽりとかじって、ジットリとした目線を猪熊さんにそそぎ込む。
猪熊さんは、
「ジャンケンの結果次第では、ヨーコがナレーションになってたかもしれないじゃないですか」
と言う。
「たられば、の話でしょ?」と小路さん。
「それはわかってますけど。
もし、ヨーコがナレーション役になっていたら……『あんなこと』、には……」
「? 『あんなこと』ってなに、亜弥」
とたんに首をブンブンと振る猪熊さん。
小路さんは眼を丸くして、
「え、事件でも起きたとか!? 旧校舎の【第2放送室】で、羽田くんとふたりっきりで――」
「ヨーコっ」
「わあっ」
「お、終わったことなんだから、いいじゃないですか!! 過去を振り返るのは、ほどほどに……。わたしも、とんがりコーン食べたいです」
焦ってるなあ、猪熊さん。
「小路さん、猪熊さんもデリケートなんだよ。とんがりコーンを食べさせてあげようよ」
ぼくは、助け船。
「ふうん」
小路さんは、不満の眼つき。
「羽田くんは、亜弥の味方か」
「ここは、味方になる」
「なにゆえ?」
無言で、ぼくは微笑みかける。
意表を突かれ、手にしていたとんがりコーンをポロッとこぼす小路さん。
とんがりコーンをこぼしたとたんに――小路さんのスマホが振動した。
スマホ画面をしげしげと見たあとで、
「――ごめん。ちょっと抜ける」
と言って席を立つ小路さん。
「えっ、どうして?」
と訊くぼくに、
「野球部的なものに……野暮用があって」
と答える小路さん。
心当たりがあったぼくは、
「野球部…。ああ、もしや、内海くん?」
「なななんで羽田くんがお見通しなわけ」
絶叫する小路さんに、猪熊さんが、とんがりコーンを食べながら、呆れのような目線を送る。
だって。
「だって、野球部の内海くんと、小路さん、仲いいでしょ。しゃべってるところ、何回か見たことあるんだ」
「……見られてたっていうの」
「不都合だったかな」
「……ぜんぜん?? トモダチってだけだし、ウッツミーは」
「内海くんをイジることに、ヨーコは喜びを見出してるんですよね」
猪熊さんが口を開いた。
「亜弥まで……あることないこと言うんだから」
猪熊さんがわざとらしくクスッと笑った。
「亜弥!!」
× × ×
「もう知らない…」という捨て台詞をつぶやくと同時に、小路さんは放送室を出ていった。
「――珍しく、可愛げのあるヨーコでしたね」
猪熊さんがぼくに言う。
「いろいろあるのかも、だね。彼女にも」
ぼくは猪熊さんに言う。
「――だれだって、いろいろあるでしょう。わたしたち――もう、高校3年生なんですし」
小路さんが出ていったドアを眺め、猪熊さんは言う。
そしてそれから、
「羽田くん。わたし、羽田くんについて、知りたいことがあって」
え。
なにを。
「【第2放送室】に行ったとき、わたしの弱みを、羽田くんに握られてしまったので――言わば、『お返し』です」
「それは……弱みを、握り返すってこと?」
「うーん。弱み、なのかどうかは、微妙なところですけど――」
柔らかい笑みで、彼女は、
「――羽田くんのお姉さんのことが、気になっているんですよ」
……。
「猪熊さん、きみもなのか」
「ハイ、わたしだって、『羽田くんのお姉さんが気になります軍団』のうちのひとりなんですよ♫」
「……軍団?」