「羽田くーーん!!」
放課後になると同時に、絶叫が聞こえてきた。
放送部の小路さんが、ぼくの教室にやって来て、ぼくを呼ぶ声。
…というか、放課後になった瞬間にこの教室に来たって、いったいどういうタイミングなの小路さん。
授業が終わる前に、じぶんの教室を抜け出したのでは…?
おかしいよ小路さん……と思っていたら。
「ちょっと!! いいかげんにしてよ!! 小路さん」
怒鳴り声。
声の主は、ぼくのクラスメイトの野々村さん。
ずんずんと、野々村さんが、小路さんの立っている教室入り口付近めがけて、歩いていく。
「わたしたちの教室に乱入してこないでっ。迷惑なんだけど」
怒る野々村さん。
対する小路さんは、
「乱入とか、ないない。ドアの前に立ってるだけじゃん。教室の敷居はまたいでないんだし」
「そんな理屈が通用すると思ってるの…!」
「それにさ、『迷惑』って、具体的には?」
「…そっそれは、クラスのほかの子がビックリして、何事かと思っちゃうし。
……それに。それに、羽田くんだって、押しかけて来られると……」
ここでぼくのほうに振り向く野々村さん。
「羽田くん……小路さん、うざったくない!?」
訊く野々村さん。
うーむ…。
うざったくは、ないけれど。
どう、野々村さんに答えるべきか。
…ピリピリの野々村さん。
そして、この場の収拾に悩むぼく。
そんなふたりのことは『お構いなし』と言わんばかりに、
「さしずめ…わたしは、『押しかけ女房』か」
とすっとぼける小路さん。
『意味がわからない…』と言いたそうな野々村さんの顔に、くたびれが滲(にじ)む。
× × ×
すったもんだの挙げ句。
なぜか、野々村さんが、放送部のお部屋に乗り込んできている。
ぼくの斜め右前の椅子には野々村さん。斜め左前の椅子には小路さん。
向かい合って火花を散らす女子ふたりが、おっかない。
もっとも、火花を散らすといっても、野々村さんのほうが一方的に敵意を向けてる感がある。
野々村さんのヘイトを冷静沈着に受け止めてるご様子の小路さん。
彼女が、
「ポテトチップス食べなよ」
と、ポテトチップスで野々村さんを懐柔しようとする。
しかし、
「いらない」
と、野々村さんは拒絶。
『わたしのポテトチップスが食べられないっていうの!?』という常套句を、きょうは言うことなく、
「お気に召さないかー」
と若干の呆れ顔でもって言う小路さん。
「あなたたちは……」
野々村さんはピリピリを持続させつつ、
「あなたたちは、羽田くんを、どうしたいの!? イジり倒すためだけに、この場所に連れ込んできてるんじゃないの」
「野々村さん、違う違う。大げさに捉えすぎ」と小路さん。
「大げさじゃないよっ」と野々村さん。
「彼だって、放送部に来るのを嫌がってるわけじゃないんだし」
そう言って、『そーだよねー』という無言のメッセージを、ぼくに向かって送ってくる…小路さん。
「は、羽田くん、ハッキリ言っちゃっていいんだよ。じぶんの意思を、伝えても……」
焦り気味に野々村さんもぼくの顔を見る。
……。
野々村さんには悪いが、
「野々村さんには申し訳ないんだけど、放送部にお邪魔するのも、意外と楽しいんだ、ぼく」
失望させちゃう答え、だったかな。
野々村さん……ぼくに裏切られてショック、みたいな表情になってる。
ガバアアッ!! と突然立ち上がる。
やぶれかぶれになったかのごとく、真向かいの小路さんを見下ろして、野々村さんは、
「ぶ…部長を出してよ」
何事もないかのごとく、
「亜弥を呼んでこい、ってこと?」と小路さんが訊く。
「そうだよ、猪熊さんを! 直談判が、したいの!」
ポテトチップスの袋をぱん、と開け、小路さんは、
「野々村さん、残念でした。
亜弥は、放課後になるなり、男子といっしょに学校から出ていった」
『!?』
ぼくも野々村さんも、同時に驚愕した。
それ……どういうことなんだ!?
こ……小路さん、ぜひとも、詳しい説明を……!!