【愛の◯◯】もっともっと、お近づきに

 

アカ子さんハウスに来た。

 

お泊りなのだ。

アカ子さんハウスで、お泊り。

もちろん、アカ子さんハウスにお泊りするのは、人生初。

 

期待に胸をふくらませ、わたしは彼女のお邸(うち)に入っていった…。

 

× × ×

 

住み込みメイドさんの蜜柑さんが、紅茶を淹れてくれる。

 

「わあ、美味しい」

「よかったです、紅茶が気に入ってもらえたみたいで」

わたしの傍らで蜜柑さんが笑う。

「ほんとうに美味しいです。どうしたら、こんなに美味しい紅茶が淹れられるんですか」

蜜柑さんは、

「長年の経験のたまもの…ですかね」

そっかぁー。

「…ですよね。オトナだもの、蜜柑さんは。『人生の先輩』なんだし」

「! ――あすかさんが、『人生の先輩』って言ってくれた!! わたしのことを」

テンションが上がる蜜柑さん。

「ぜんぜんわたしのことをリスペクトしてくれないお嬢さまとは、大違い」

 

……タイミングよく? アカ子さんが、がちゃん、とカップを置く。

 

「聞き捨てならないわね」とアカ子さん。

「お嬢さまったら、はしたない。音を立ててティーカップを置いたりして――」と蜜柑さん。

 

まあまあ、おふたりとも。

 

「ケンカはよくありませんよ。まったりと和やかにいきましょーよ」

仲裁役のわたし。

 

「……そうね。ケンカはよくないわね」とアカ子さん。

「ケンカはよくないわ。だから……蜜柑は、別の部屋で休憩でもしていなさい」

「ええっ、お嬢さま、隔離政策ですか!?」

「なにが隔離政策よっ!」

「ますます攻撃的になられましたねえ、お嬢さまも!!」

 

まあまあ。

平和に。

 

× × ×

 

「お見苦しいところを見せてしまったわね」

じぶんの部屋のベッドに腰かけたアカ子さんが、うつむき気味に言う。

「いくら有能であっても……あんな人間性なものだから、参っちゃうわ」

ふむ。

 

「……でも、なんだかんだで、アカ子さん、蜜柑さんが好きなんでしょう?」

「好きかどうかとは少し違うけれど……リスペクトは、しているのよ。それなりに」

「それはそうですよね」

人間性はリスペクトできないけれど、存在自体はリスペクトしてる」

「……なるほど」

「蜜柑は、『家族』なんだから……大事には、したいわ」

「してあげてください」

「ケンカしながら、大事にする」

 

ケンカするほど仲がいいって感じなんだな……とわたしは思う。

 

 

ところで。

「アカ子さん。――窓際のぬいぐるみを見てもいいですか?」

「どうぞ? ご自由に、ご覧になって」

 

窓際に歩いていき、間近で、アカ子さんお手製のぬいぐるみたちを眺める。

 

リラックマファミリーが勢揃いしてるほかにも、すみっコぐらしだったり、ころころコロニャだったり、サンエックス系のキャラクターが充実。

 

しかも、これらがぜんぶ、アカ子さんのお手製なんだから、凄まじい。

 

「――すごいスピードでぬいぐるみ作るんですね」

「手の速さには自信があるのよ。手前味噌だけれど」

「器用なんだ、手先が」

「父譲りなんだと思う……不本意だけれど」

 

アカ子さんのお父さん――某自動車メーカーの社長さん――は、日曜大工やプラモデル作りが好きで、彼女もその遺伝子を継いで、バイト先の模型店で、ミニ四駆を修理したりすることがあるらしい。

 

「ぬいぐるみだけじゃなくて、ミニ四駆も!」

わたしがそう言うと、アカ子さんは顔を赤らめる。

赤らめながら、

「特技だけれど…言うのは少し恥ずかしい、特技」

えーっ。

 

「恥ずかしがらなくても~」

わたしは、やにわにベッドに近づいて、

「ここ、座らせてください?」

「…いいけれど、どうしたの?」

アカ子さんの手を…至近距離で見たくって

!?

 

もっとお近づきになりたいから。

見せてくださいよ……。

そのキレイな、手を。

 

× × ×

 

こんな感じで、ベッドの上で、夕方まで、アカ子さんとイチャイチャしてた。

 

あっ。

「イチャイチャ」に、変なニュアンスは、ありませんよ??