「いよいよ、学祭(がくさい)シーズンだねえ」
小路さんが言う。
「楽しみだよね!? …ねえ!? 羽田くん」
元気に言いつつ、迫ってくる小路さん…。
「…もちろん楽しみさ。今の時点で、きみほどお祭り気分にはなってないけど…ね」
「わたし、そんなにテンション高い!?」
自覚がないのか…。
やれやれだ。
相変わらず……やれやれだ。
「とりあえず、とんがりコーン、食べよっか」
言うと同時に、お皿にとんがりコーンを放流する小路さん。
「あいにく、あっさり塩味しか無かったけど、我慢してね」
フレーバーにこだわりでもあるんだろうか。
「絶対に、焼きとうもろこし味のほうが美味しいんだけど…」
あっ、やっぱりあったんだ、こだわり。
「品薄なのかなあ。…羽田くんだって、焼きとうもろこし味のほうしか、愛せないでしょ!?」
……なんなんだ、その言い回しは。
「次は、ちゃーんと焼きとうもろこし味のとんがりコーン、持ってきてあげるからさ」
そう言ったかと思うと、ダメ押しみたいに、
「ハウス食品さんにお手紙でも出そうかな。もちろん、焼きとうもろこし味とんがりコーンへのファンレター…っていう体裁でね」
とか言い出してくるから……やっぱり小路さんだ。
「ヨーコ。とんがりコーンの味で、引っ張りすぎです」
猪熊さんが、バッサリ。
「きょう、ロングホームルームがありましたよね? わたしたちのクラスの出し物についての、話し合い」
「あったけど――それが?」
「ロングホームルームのあいだ、ヨーコはずーっと、とんがりコーンのことばっかり考えてたんじゃないですか?」
「まっさかー」
手をヒラヒラと振って小路さんは、
「想像が飛躍しすぎでしょー、亜弥。わたしだってマジメにロングホームルームしてたよぉ」
「……」
「なにそのジト目は」
「もし、ヨーコがもう少しマジメだったなら、きょうの段階でクラスの出し物は決定していたはずなのに……」
「エッ、責任のなすり付け!?」
「ヨーコ。あなたは明るく元気なのはいいですけど、」
「?」
「もう少しマジメにやってください。偏差値だけ、優等生であるんじゃなくって」
たしかになあ…。
すごく勉強ができるのに、基本フマジメなのは、ほんとうにもったいない。
学業の優秀さと人格の立派さは、案外両立しないものなのかな……などと思っていたら、
「――羽田くんのクラスは、どうなんですか?」
と、今度はぼくに、猪熊さんがダイレクトな質問をダイレクトに投げてきた。
「ぼくのクラス?」
「そうです。きょうの時点で、出し物、決定しましたか??」
「うん。決まったよ」
「さすがですね。羽田くんのクラスは、野々村さんが居るだけある」
「え……どうして唐突に、野々村さんの名前を出してきたの」
「……それで、中身は?」
「中身?? ……あーっ、出し物がなんなのか、知りたいんだね」
「教えてください」
……。
教えてあげても、いいのだが。
ぼくは猪熊さんへの応答を敢えて保留にして、とんがりコーンあっさり塩味をヒョイ、とつまんでパクッ、と食べる。
「焦(じ)らす……理由は……??」
戸惑いの猪熊さん。
敢えて。
敢えて、彼女の戸惑い顔に、無言で笑いかけるのみ。
「ど……どうして、そんなにイジワルに……羽田くん」
あはは。
「――きみたちのクラスの出し物が、無事決定したとき、教えてあげるよ」
「なっ」
イジワルにされて、猪熊さんの眉間に少しシワが寄る。
「アハハハ~~。亜弥、これは『一本取られた』ねえ」
小路さんの、からかい。
「羽田くんによる、強烈な焦(じ)らしプレイだ」
…猪熊さんは不機嫌に小路さんを見て、
「焦らしプレイだとか、品のないことばを使うのはやめてください」
と注意。
「そんなに下品かなー?」
「下品ですよっ」
「えーっ」
「ヨーコ!! わたしは、品のないことばづかいには、容赦なく警告しますよ!?」
「……敬語キャラの面倒くささ、ここに極まれり、か」
「……悪かったですね。マジメだけど不器用な敬語キャラで」
ぼくは――微笑ましく、猪熊さん・小路さんコンビの掛け合いを眺めていた。
すると――猪熊さんが、素早く視線をぼくの方向に転換させて、
「羽田くん。
あなたに……お願いがあるんですが」
え。
どんな??