【愛の◯◯】ムカッ腹野々村さん

 

某イタリアンファミリーレストラン

 

ぼくの前には、

 

・3年連続クラスメイトの野々村ゆかりさん

・放送部部長の猪熊亜弥さん

 

のふたりが――隣同士で座っている。

 

× × ×

 

「――どういう流れでここに来たのか、整理してみたいんだけど。

 まず、きょうは終業式だった。

 それで、半日で学校が終わって、すぐさまぼくは下校しようとした。

 だけど、旧校舎の近くで――、

 野々村さんと猪熊さんに、

 挟み撃ちにされた」

 

そう。

ほんとうに、両方から……来られたのである。

 

「きみたちふたりがぼくを待ち構えていた理由は――」

 

「羽田くんに言いたいことがあったから」と野々村さん。

「羽田くんと1学期の反省会がしたかったんです」と猪熊さん。

 

「野々村さん」

「…なに」

「ぼくに言いたいことって…具体的には?」

いろいろ

「ええぇ……」

 

その答えがいちばん困るんですけど。

 

「……羽田くん、最近、なんだか様子がおかしかったんだもん」

「……野々村さんにはそう見えたの?」

「見えた。なーんか、くたびれてるみたいだった」

「くたびれてる、か……」

「体調、悪いの? それとも、精神的な問題?」

 

ぼくは苦笑いで野々村さんに、

「きみが感じてるほど深刻じゃないから。心配する必要はないよ。もちろん、心配してくれること自体はありがたいんだけどね」

 

ホントに!? と疑わしそうな眼の野々村さん。

 

ここで、今度は猪熊さんが、

「でも――わたしが保健室に連れていってあげたこと、ありましたよね」

と、ご指摘。

 

新事実に野々村さんはビックリして、

なにそれ!? 初耳

と叫ぶ。

彼女は隣の猪熊さんに視線を送って、

「猪熊さん……羽田くんを……介抱したの??」

と訊く。

「介抱したというほどでもないです。わたしはただの付き添いでしたから」

「でも、保健室でいっしょに居たんでしょ」

「居ましたよ。羽田くん、ベッドに横になるとすぐに眠り始めたので、その場を離れるわけにもいかなくなって」

「……ほっとけなかったんだ」

「……はい?」

「猪熊さんは、羽田くんのこと、ほっとけないんだね」

「……どういう意味でしょうか。野々村さん」

 

不穏に……なってきたぞ。

ぼくはどうするべきか。

 

「猪熊さん、アナタ、1学期の反省会を羽田くんとするつもりだったんだよね!?」

野々村さんが攻撃的に詰めていく。

「『ふたりで』するつもりだったんでしょ!? 反省会」

「ええ。そのつもりでしたけど。それがなにか?」

そんなに羽田くんとふたりっきりがいいんだ

 

野々村さんのアタックに、猪熊さんは一瞬うろたえ顔になる。

 

でも、

「――野々村さんにしたって、羽田くんと1対1で話したかったんでしょう? 元々は」

と、すかさずカウンターアタック

冷静だ。

 

「そ、それは……、1対1がフェアっていうものだし」

「だったら、わたしの反省会もフェアだってことになりますよね。同じ1対1なんですから」

「ちょっと……違うんじゃないの??」

「どこが違うんでしょうか」

「あ、あのねえ猪熊さん!!」

 

冷静さを崩さず、猪熊さんは、野々村さんの顔を見る。

 

それから、じぶんの席の後方に眼を転じて、

「野々村さん。

 パルマ風スパゲッティが――来たみたいですよ」

 

× × ×

 

パルマ風スパゲッティ(ダブルサイズ)を野々村さんはあっという間に食べ切った。

 

「……なんにも食べないわけ?? 羽田くんと猪熊さんは。ドリンクバーだけで満足なの」

 

野々村さんの指摘に対し、猪熊さんが、カフェオレをコーヒースプーンでくるくる回しながら、

「野々村さんほど飢えてはいませんから

と、反撃……。

 

素朴な疑問からぼくは、

「――そもそも、どうして野々村さんは、『◯イゼリ◯に行こうよ』とか言い出したの?」

と訊いてみるも、

旧校舎の近くで猪熊さんを見た瞬間に、なにか食べなきゃ気が済まなくなったから

と……謎めいた返答。