【愛の◯◯】勝手にアイドルに祭り上げないでくれませんか

 

「こにゃにゃちわ~ん。

 さてね、金曜日のね、『ランチタイムメガミックス』ね、始めていきましょうね。

 

 ホラホラ。

 もみじ。

 あんたも挨拶するんだよ、挨拶」

「え、えーっと……。

 皆さま、お初にお目にかかります」

「いや、これはラジオだし」

「そ、そーでした。

 なんて言ったらいいのか……。とりあえず、皆さま、はじめましてです」

「名前、名前」

「あっ……はい。

 2年生の中川紅葉(なかがわ もみじ)です。

 今日もこの番組のパーソナリティを務めている高津かがみ先輩の、後輩です」

「生放送慣れしてないなー」

「あ、当たり前だと思うんですが」

「もっとアゲて行こうよ」

「どうやって?」

「もっともっと自分をさらけ出すんだよ。中川紅葉っていう人間を前面に押し出していかなきゃ」

「良く分かりませんよ」

「や~~、それにしても、もみじはショートヘアだねえ」

「なっなんですかそれっ!? わたしの髪型への言及が突然過ぎませんか!?」

「ショートヘアはショートヘアだし」

「だからなんなんですか」

「おっ。

 いいね、その不機嫌な感じ」

「別に不機嫌なわけじゃないんですからね」

「おおおっと!! ツンデレ

「……はい?」

 

× × ×

 

「もみじ、お便りを読んでよ」

「かがみ先輩が読めばいいのに」

「お願いよ。1通だけでいいんだから」

「分かりましたけど……」

「番組に新しい風を吹き込んでほしいし」

「わたしが、新しい風を……??

 

 ……まあともかく、読んでみようと思います。

 黙ってしまって放送事故になってもいけないので。

 

 ところで。

 このお便り、手書きなんですけど、ぶっちゃけ、字がすごく読みにくい……。」

「つべこべ言わないの」

「言いますよ! ラジオネームすらも読みにくいんですから」

「そのラジオネームはね、『余弦定理(よげんていり)』って読むの」

「はい!? 数学ですかっ」

「そ。スーガク」

「この文字をどう読めば『余弦定理』になるんですか」

「つべこべ言わないの、もーーっ☆」

余弦定理……。

 三角関数でつまずくヒトって、多いみたいですね。

 

 分かりました。読みますよ。

 読みづらい部分は、勝手にコトバを補って。

 

 ラジオネーム、『余弦定理』さん。

 

『1週間前の告知で、中川紅葉さんがアシスタント役で番組に出てくれると知って、その瞬間からワクワクドキドキが止まりませんでした!! なんてたって、紅葉さんは、我が校の文化系クラブ活動のアイドル――』

 

 な、な、な、なんですかっ、この、勝手な妄想はっ!!!

「――嬉しくないの??」

「破りたいです」

「なにを」

「紙を」