【愛の◯◯】これだから、部長も副部長も……。

 

読者の皆さま、はじめまして。

わたし、中川紅葉(なかがわ もみじ)っていいます。

4月から、桐原高校の2年生です。

部活は放送部。

……身体的特徴?

なんの変哲もない見た目だと思いますけど。

あ。

「こだわり」がひとつあって。

どんな「こだわり」かというと……あんまり髪を伸ばしたくないんですよね。

ミディアムヘアでも、長い。

短髪にこだわっている、ということです。

理由は……言わないでおきます。

 

× × ×

 

3月の最終日です。

もちろん春休み期間中です。

でも、部活はあります。

だから、放送部のお部屋に来たわけなんです。

なんですけど。

 

「あのぉ」

部長の若松ハナ先輩にわたしは訊きます。

「『ランチタイムメガミックス』の録音なんて、する必要あるんですか? お昼の校内放送だけで充分じゃないんですか?」

「中川ちゃんは真面目だね」

ハナ先輩は笑います。

わたしのことを「中川ちゃん」と苗字でしか読んでくれない彼女は、

「かがみ、居ても立っても居られなかったんだよ」

と言って、スタジオを窓越しに見ます。

スタジオ内では副部長の高津かがみ先輩が喋り倒しています。

かがみ先輩がパーソナリティになって、『ランチタイムメガミックス』の録音版を制作しているというわけなんです。

そもそも。

そもそも、『ランチタイム』メガミックスっていう番組名なわけでしょ。

いま、ランチタイムでもなんでもない時間帯なわけで。

お昼の校内放送であるからこそ、『ランチタイム』メガミックスという番組名が成り立つんじゃないんでしょうか……??

 

その疑問をハナ先輩にぶつけてみました。

みたんですが、

「中川ちゃんも甘いねえ」

「甘い……って」

「録音であっても、『ランチタイム』が付く番組名であるからには、いつかのランチタイムで放送するってことなんだよ」

「その『いつか』って、いつになるんでしょうか??」

「わからにゃ~い」

ふ、不真面目な……。

 

部長とは思えないハナ先輩の態度に戸惑っていると、窓越しのかがみ先輩が席を立つのが眼に入ってきました。

かがみ先輩がこっち側の部屋に戻ってきます。

戻ってくるなり、

「ケンカはダメだよ、ふたりとも」

と叱ってくるんですが、

「ケンカなわけないじゃーーん、かがみぃ」

とハナ先輩がトボけます。

「ふうん……。ハナがケンカじゃないって言うのなら、そうなんだろうね」

呆れているという意思のこもった目線をハナ先輩に送るかがみ先輩。

それから、

「もみじ。こんな人間のこと、信用したらダメだよ」

と、下の名前呼びで、わたしにアドバイスを与えるのです。

わたしはなんと返事すればいいのか分かりません。

『はい、信用しないです』なんて、部長がいる前では……。

狼狽(うろた)え加減になってしまっているわたしを余所(よそ)に、

「罵倒がキツすぎるよ~~、かがみ」

と、やはり笑いっぱなしで、ハナ先輩が言います。

「キツくないよ」とかがみ先輩。

「キツいよ」とハナ先輩。

「何度も言わせないでっ。ぜんっぜんキツくないんだからっ」

「ねーねー、かがみ」

「なに!? 言う内容次第では、『部長失格』判定するよ」

「キツいキツくない云々じゃなくってさ、」

「だから、なに!!」

キツツキの話……しない?」

「し、失格っ!!!」