【愛の◯◯】口から不意に出た『彼女』の名前

 

「はい! ランチタイムメガミックス(仮)、増刊号です。パーソナリティは、もちろんわたくし、板東なぎさ~。

 ではでは、さっそくですが、1学期のあいだに読みきれなかったおたよりを、読んでいきまっしょい。

 

 まずは、ラジオネーム『夜のドラえもん』さんから。

 …どういうラジオネームだよ、って感じが正直するけど、とにかく読むね、読んでいくね。

 

『板東さんは、サッカーのポジションでどこが好きですか?』

 

 んー、

 サッカーのことは、イマイチわかんないわたしだけど、

 ……ミッドフィールダーかなあ。

 ほら、

『トップ下』とか『司令塔』とか、なんだか、カッコいいじゃん?

 シュート撃つだけとか、守るだけとかじゃなくって、いろいろできそうなところが、魅力だなー、と思って。

 もっとも…ミッドフィールダーが、実際になにやるのかは、まったく知らないんだけどねーん。

 

 続きまして、ラジオネーム『人間は考えるアシカである』さん。

 …秀逸なラジオネームですね~~。

 ほめてあげる。

 ホメちゃうぞ、おねえさんが☆

 

 ――このひとの学年も性別も知らないんですけどね。

 でも、わたしがラジオネームを評価してあげたんだから、感謝してよね。

 え?

 上から目線?

 ごめん~~。

 

 ……読みます、おたより。

 

『クーラーの設定温度は何℃がベストと思われますか?』

 

 ……ラジオネームの秀逸さに比べて、かなりとりとめのない質問だね。

 

 そうねえ。

 わたしの、最適な温度は――」

 

 

× × ×

 

「板東さんはクーラーの設定温度をそんなに高くするんですか?」

「あ~ら、しつれいしちゃうわね~」

「……」

「人それぞれでしょ」

「そうではありますが」

「羽田くん、暑がり?」

「そういうわけでは」

「…わたしのほうが、夏の暑さに強いのかもね」

「まあ…クーラーの設定温度的には、そうなのかもしれませんね」

「あ」

「なんですか」

「『この話題、どーでもいい』って顔になってる」

「ぐっ…」

 

夏休みに入っても、登校して、

KHKの【第2放送室】に来て、

ランチタイムメガミックス(仮)の増刊号を収録したまではいいのだが、

例のごとく、アフタートーク的なやり取りにおいて、板東さんにタジタジである。

 

黒柳さんが早めに帰ってしまったので、助け船もない。

 

「演劇部のおかげで、無事テレビドラマも完成したことだし、次の企画を考えるべきときだね」

「板東さんは……休みなく働きますね」

「羽田くんこそ、休みなく働かないと。まだ2年生なんだよ?」

「たしかに、いちばん自由に動けるのは、2年生のような気がしますが」

「当たり前じゃん。2年の夏と、3年の夏じゃ、大違いだよ」

 

ぼくは、2年の夏。

板東さんは、3年の夏……。

 

3年の夏、なんだよね、板東さんも、黒柳さんも。

だとしたら。

 

「……受験勉強は、いいんですか?

 なんだか、あまりにもKHKの活動に熱心で、受験のことなんか眼中にない、って感じがするんですけど」

「わたしが?」

「板東さんが。」

「……いろいろ、吹っ切れたから。」

「吹っ切れた、とは」

「詮索(せんさく)は、よし子ちゃん」

「なんですかそれ…」

「受験もがんばるし、KHKもがんばる。欲張りなの、わたし」

 

この調子だと……、

2学期になっても、引退する気配なんてないな。

 

「『やれやれだな』、って言いたそうな顔だ、羽田くん」

「言いたくもなりますよ」

「厳しいね」

「板東さんと『互角』でいたいですから」

「『互角』?」

いじられキャラの後輩ポジションに、満足できないんです」

「そこまで羽田くん、いじられキャラ?」

「――板東さんに、わかるわけないですよねっ!」

「オーッ」

「…そのリアクションは?」

「ツンツン、ってしてる。反抗的羽田くんだ」

「べ、べつに、」

「とうとう反抗期に入ったか~~」

…扇風機、停(と)めますよ

 

× × ×

 

「興味があって、取材したいところが、あるんだよ」

「好奇心旺盛ですよね、板東さんは……」

「でしょっ? 

 えっとねー、取材してみたいのはー、

 聴いて驚くなかれ、

 羽田くん、あなたのお姉さんが……通ってた、女子校!!

 

「そっ、そんな、いきなりなぁ……」

 

「サプライズ、しちゃった☆」

「……あの」

「どしたの?」

「姉はとっくに卒業したんですよ? 姉のいない学校に、いったいどんな興味関心があって」

「あなたの、お姉さん――愛さんはさぁ」

「……」

「文芸部の、部長をやってたでしょ?」

「……教えましたっけ」

「知らないわけないじゃん。熱狂的な愛さんファンのわたしが」

「……」

「わたしの取材ターゲットは――その文芸部」

「――姉の後輩に、話を訊いてみたいと?」

「愛さんの武勇伝はもちろんだけど、そのほか諸々(もろもろ)」

「度胸ありますね……川又さんたちと、面識ないでしょ」

 

「――川又さん?」

 

アアッ

 

「――羽田くんのほうは、面識、あったんだ~~」

 

 

…不用意に、

川又さんの名前を、出してしまった!

ごめんなさい、川又さん……。

 

「川又さんってだれ」

心拍数が上がるぼくに、

「もしや、文芸部の、部長だったり?」

と、畳みかける。

 

観念して…首を、タテに振る。

 

とたんに、

アポがとれるんじゃ~~ん!! やったああぁ

とすごい勢いで喜び始める、われらがKHK会長……!

 

 

板東さんが、川又さんに、接触

そしてぼくも、またしても、川又さんに、接触……。

 

……楽しいから、いいんだけど、

川又さんに会うこと、それ自体は。