【愛の◯◯】パーソナリティデビューの後始末と、意地悪の張り合い

 

「えーっと、

 えーっと、

 これ――もう、始まってるんですよね?

 

 どうすれば……。

 

 え?

『とにかくタイトルコール』ですか?

 

 わかりました。

 

 ……『ランチタイムメガミックス(仮)』の、お時間です。

 とりあえず、これは自己紹介が必要な流れ、ですよね……。

 いきなり、板東さんじゃない声が聞こえて、びっくりされてるかたも少なからずいらっしゃると思いますので。

 あらためまして――はじめまして。

 2年の羽田利比古と申します。

 どうして、ぼくが今、しゃべらされているかといいますと、

 唐突に、『ピンチヒッターになってくれ』、と板東さんに言われまして。

 ピンチヒッターが必要なのなら、なんで今、板東さんもスタジオに一緒にいるのか、とてつもなく不可解なところなんですけど。

 ――要するに、罰ゲーム的ななにかですか? これ。

 

『ちがう、ちがう、』って、板東さぁん、笑いながら言わないでほしいんですけど。

 板東さんの声も漏れちゃうし。

 ぼくがピンチヒッターになる理由が、わかりかねます。

 あー、

 面白いからですか? ぼくが校内放送のパーソナリティとして、しゃべるのが。

 それは、だれにとって面白いかっていうと、板東さんにとって面白いにすぎないんじゃないですかっ。

 

 ――『ケンカはやめようよ』って。

 わかりましたよっ。

 ぼくは素直だから、友好的にいきます。

 板東さんや自分の姉とは違うんです。

 素直なんです。

 

 ――『お姉さんを引き合いに出す必要あったの?』って、横にいる先輩が言ってますけど、

 ありませんでした。

 はい。

 お姉ちゃん……ごめん。

 録音は、たぶん残さないから。

 

 ……放送事故みたいに笑わないでください、横にいる板東さん。

 

 おたよりを読みます。

 ラジオネーム『スペシャル海鮮丼』さんから。

 

 ……、

 ……、

 なんですか……この文面は!?

 

 嫌がらせですか!?

 

 こんなの、声に出して読めるわけないじゃないですか!

 

 怒りますよ、真剣に……!!

 いつかの板東さんじゃないですけど、『破門』にしたくなっちゃいますよ、これは!!!

 

 板東さんも板東さんです。なんでこんな代物(しろもの)を、おたよりのなかに紛れ込ませるかなあ!?

 品性を疑うっ。

 

 ――とっととぼくは、次のおたよりに行きたいと思いますっ。

 えー、ラジオネーム『夢夢あんあん』さん……。

 ラジオネームは、どうしようもないけど……文章は、比較的まともなので、読みたいと思います。

 時間も押してるので、テキパキと――」

 

 

× × ×

 

なんなんですか、あの『おたより』はっ!!

 

ぼくは板東さんに真剣に怒った。

 

「ラジオネーム『スペシャル海鮮丼』さんのやつ?」

「それです」

 

文面を思い出して、顔がヒートアップしながらも、

 

「――『羽田くんのお姉さんのスリーサイズを教えてください』って……いったい、どんな悪意でもって。おたより送る側も、おたより選ぶ側も」

 

そして、これは、

「こんなのを採用した板東さんの責任ですよ、全部。ぼくに対するイタズラにしても、程がある。

 ――板東さん、そんなにぼくをイジメたいんですか?」

 

「……」

「な、なにか言ってくださいよ」

 

彼女は舌をペロッと出して、

「……やり過ぎた?」

「……どう考えても。」

「ごめんねぇ」

「ごめんねぇ、じゃ足りないです。ずっとずっと反省していてほしいです。

 いくらなんでも、悪質です。なんなら、この『おたより』を、生徒指導の先生に見せることだって――」

「エッ、チクるの、生徒指導に」

「ぼくの家族が絡んでるんですよ!?」

「羽田くん、こわい……」

「姉のためなら鬼になります」

「……生徒指導が出てくると、めんどくさいことになっちゃうかなー、って」

「だったら、こういう真似は、二度としないでください」

 

ガッカリした感じで、肩をすくめる彼女に、

「わかりましたかぁ!?」

と念押しする。

 

念押しが足りない気がして、ぼくは畳みかけるように、

「ぼくや黒柳さんをからかったりして遊んでるヒマ、あるんですか!? 板東さん。

 KHKの次の企画も動かさなきゃ、だし、

 それに加えて、板東さんには、やらなきゃいけないことが、いろいろあると思うんですけど。

 ――3年生なんだし」

 

『3年生なんだし』という指摘に、ぴくん、と反応したかと思うと、ぼくから顔を逸らしてしまう板東さん。

 

彼女は、ソッポを向きつつ、焦り始めている。

 

自分の進路に対し、なにか思うところが、あるんだろう。

あるに違いない。

 

「……黒柳くんのほうが、よっぽどわたしより切羽詰まってるよ」

 

そう、捨てゼリフ。

黒柳さんは、今、部屋にはいない。

 

「それに……2年生の羽田くんには、関係ないことじゃん」

 

そんなことはない、ということは明白だと思っているのだが、

あえて、

「そうですか……」

と、素直に引き下がる。

「では、今後は、余計なお節介は、自重しようと思います」

 

ソッポを向いたまま、

湿っぽい声になって、

「羽田くん……」

「……?」

「羽田くん、あのね、」

「どうしました……?」

 

小さく、かぶりを振って、

 

「――ううん、なんでもない。

 なんとかするのは、わたしだし」

 

そう言うと、立ち上がって、

スタジオブースのほうに歩いていき、

中に入った途端――発声練習を始めた。

 

意味深な言葉を、反芻しながら、

発声練習に、耳を傾ける。

 

 

今日は――ぼくと、彼女と、いったいどっちのほうが、意地悪だったんだろうか?

わからなくなってきてしまった。