「――はい、ランチタイムメガミックス(仮)、はっじめっましょ~っ。
ハロー、アイ・アム・ナギサ。板東なぎさ。
なんだけどぉ、
ダルい。
月曜だからということもあるけど、
とにかく、ダルい。
ダルダル。
ダルいっちゃ~。
…なんだか、『ダルいっちゃ~。』が、『うる星やつら』のラムちゃんみたいな言いかたになっちゃったけど、
ラムちゃんって。
ラムちゃんって。
元ネタが、80年代、昭和……。
……え~、
さっきの『ダルいっちゃ~。』は、声も、アニメのラムちゃんに、実は微妙に似せていたつもりなんだけどね、
――似てなかったかな?
ま――似てなくても、いいとも!!
ラムちゃんの声優さんって…平野綾…じゃなかった、平野文さん、でしたっけ。
なんだか、テンションイマイチ上昇してないけど、
とりあえずおたよりを読むね……。
……ラジオネーム、『すき焼き定食肉2倍』さん。
また、こんな時期に、暑苦しいラジオネームだこと……。
まあ、いいです。
読みます。
ラジオネームdisったら、泣いちゃうよね。……」
× × ×
いま、【第2放送室】には、板東さんとぼくのふたりしかいない。
板東さんがパタパタと下敷きで上半身を扇(あお)いでいる。
お昼の放送でも、ダルさをしきりに強調していたが、ほんとうにダルそうだ。
「湿気~~」
湿気の多い気候を呪うような声を出す板東さん。
「羽田くん」
「はい?」
「こんど、扇風機運んできてよ」
「…どこから?」
「…どこかに、あったはず」
「…まず、扇風機のありかを確認してから、ぼくをパシらせてください」
「羽田くんパシリにするつもりなんかないよっ」
「また、説得力皆無な…」
パシーン、と、叩くように下敷きを机に置いて、
「――扇風機どころじゃなかった。羽田くんに重要伝達事項があるんだった」
「え」
「今週の木曜日、授業が早めに終わるでしょ?」
「はい」
「授業終わったあとで、泉学園の放送部との『交流会』があるんだよ。ことしは、ウチの放送部だけじゃなくって、KHKにも参加してほしいって。泉学園放送部側(がわ)からの、お達し」
「KHKも、放送系クラブだから、ということですか?」
「そ」
「場所は」
「泉学園」
「なるほど……。で、板東さん、その日は『交流会』参加のため、放課後【第2放送室】には来ない、と」
突然に板東さんがダークな笑みを浮かべて、
「『交流会』で泉学園に行くのは、わたしだけじゃないよ」
「え? 黒柳さんもですか」
「ちがうよ! 羽田くんだよっ!!」
えええ。
「どうして、ぼくが、行かなきゃいけないんですか!?」
「『男子がほしいよね』って。これも、泉学園のほうからの、ご要望」
「だったら、黒柳さんが」
「黒柳くんはダメでしょう」
「どうして…」
「わかんないの!? 女子に囲まれて、なにをしでかすか、わかったもんじゃないよ」
黒柳さんに対する認識のひどさ…相変わらず。
サディステックな。
「く、黒柳さんを、もう少し信頼したって」
「信頼してないわけじゃない!!」
「ええ…」
「だけど! 『交流会』みたいな場に出ると、足手まといなだけだから。
だから、羽田くんこそ、適任ッ!!」
…強権発動、って感じだ。
「――羽田くんは、年上の女子と渡り合うの、得意じゃん」
い、いきなりなっ。
「こっ根拠、根拠ありませんよね!?」
「羽田くんお姉さんいるし」
「姉は根拠にならないですっ」
「だったら、麻井先輩。麻井先輩あんなにコワかったのに、物おじしなかったじゃん。物おじしないどころか、麻井先輩と映画館にまで――」
「なななななななっ」
「――そんなリアクション、無駄だよ。とっくにバレてるし」
「板東さん――」
「どぉした。」
「――少し、落ち着かせてください」
「うん♫」
× × ×
…ようやく、気を取り直したぼくは、
「ウチの放送部からは、だれが『交流会』に? やっぱり部長さんが?」
「部長だね」
「北崎さん…」
「そ、そ。北崎沙羅(きたざき さら)ちゃん」
北崎さん、か。
板東さんは、北崎さんと同期で、桐原高校放送部に入部したのだが、
麻井先輩に引き抜かれるかたちで、板東さんは放送部を退部、
KHKの創設メンバーとなり、現在に至る。
板東さんが麻井先輩を引き継ぎ、KHKの2代目会長になるいっぽう、
北崎さんは、麻井先輩のライバルであり旧友でもあった甲斐田さんを引き継いで、放送部の部長にのぼりつめた。
「……サラちゃんには負けたくないよね」
なにを言い出すんですか、板東さん。
北崎さんと、張り合い、ですか!?
「向こうは、泉学園は、部長と副部長のふたり出席なんだけどさ、」
「……」
「負けたくないよね。勝ちたいよね」
「……それは、泉学園の放送部と、ウチの放送部と、どっちにも勝ちたい、ってことですか」
「KHKしか勝たないっ!!」
「……なにをもっていったい、『勝ち』になるんですか!?」
なにも言わず、
ほくそ笑むばかりの、KHK会長…。
「ま、まるでっ、世の中には『勝ち』と『負け』しか存在しないみたいに、」
「そーなんじゃないのっ?」
「え、ええ、ええええっ」
「羽田くーん」
「な、なんですか」
「今回、羽田くん、『え』とか『ええ』とか『ええええっ』とか、『え』を言い過ぎだと思うんだけど」
「ど、どうでもいいですよね!? それは」
「よくないよ。相づちがワンパンマンだと、負けちゃうよ?」
「……ワンパンマン???」
「しらないか~」