「は~~~~~~~~~い!!
お元気ですか~~~~~!?
ランチタイムメガミックス(仮)のお時間ですよ~~!!
新学期になって、最初の週も、きょうで終わり。
新入生のみんなは、もう学校に慣れたかなあ?
あ、
わたしのこと、よく知らないよね? 入学したばっかりの子は。
わたしはね。
わたしはね……。
令和のアイドル、板東なぎさですっ☆
――なんちゃって。
『なんちゃってオジサン』が出ちゃうな。
ダメだ。
普通に自己紹介しろよ、って感じだよね。
えーっと、KHK、『桐原放送協会』の会長を務めさせていただいてる、板東なぎさと申します。
KHKってなんですか? と興味をお持ちになったかたは、旧校舎の【第2放送室】までお越しください。
あと、宣伝なんだけど――実は春休みに、『ランチタイムメガミックス(仮)』の春休み特別バージョンを収録いたしまして、いずれ、その発表会をやりたいと思います。
参加費はもちろん無料で、入退場自由なんで、ヨロシク。
春休み特別バージョンには、構成作家として、『あの』羽田利比古くんも出演しているので、乞うご期待といったところですね。
羽田くんこそ、令和が生んだ、スターだな。
……その素質はあると思う。
さて、羽田くんは、今年度、何人の女子に告白されるんでしょうか!?
365日が、モテ期の彼!!
もとい……。
ここで、ひとまず1曲かけようと思います。
きょうは、なんと洋楽……。
『Shout to the Top!』」
× × ×
「はい。
――知ってた? この曲。
スタイル・カウンシルっていうのは、ポール・ウェラーっていうイギリスの有名なミュージシャンがリーダーだったバンドなんだけど、
『とくダネ!』ってワイドショーがあったでしょ? いま流した曲は、むかし『とくダネ!』のオープニングに使われてたみたいで。
って言っても、いまいちピンとこないか。
正直、わたしも世代的にピンとこないんだけど――、もっと上の世代の人には、『とくダネ!』の曲ってことで、そこそこ有名なようです。
元は80年代の洋楽なんだけどね。洗練されてるよね。
『とくダネ!』も終わっちゃったみたいよね。
フジテレビ、なんだかいろいろな面で、いま大変な感じだけど……。
ニュース番組とか、全部タイトル変わっちゃったり。
『いいとも』が終わったのも、『何年前だっけ?』ってわかんないぐらい、大昔のことでしょ。
それにつけても、『めざましテレビ』は、安定してるよね。
みんなは、朝ごはん食べながら、どのチャンネルを見てる?
よかったら、教えてね。
――お便りを、読みます。
ラジオネーム『ムーミンのぬいぐるみ』さん。
『板東さんこんにちは。質問なんですが、板東さんがいちばんよく利用するコンビニエンスストアは、どこですか?』
ふむふむ。
お答えしましょうか。
えー、いま聴いてるみなさんは、セブン-イレブンやローソンやファミリーマートといった有名どころのコンビニを思い浮かべているかもしれません。
『たぶん、セブンかローソンかファミマか、3つのうちのどれかだろ』ってね。
……ちっちっち。
その『読み』は、ちょっち、甘いんだな。
たしかに、セブンやローソンやファミマは、そこらへんにいっぱいお店があるんだけれど――、
わたしはね、ミニストップなの。
家の近所にあるミニストップが、わたしの行きつけのコンビニ。
……いいと思うんだけどな、ミニストップ。
大手じゃないけど、独自の立ち位置が……好き。
ところで、むかしはコンビニの種類がもっといっぱいあった気がするけど、なんだかバリエーションが減ってる感じだよね、いまは。
だいたいセブンかローソンかファミマ、なんだけど、
その一方で、東京都心にポツン、とポプラがあったりする。
どんなレアキャラかな? と思っちゃうけど、
業界再編の波は、今後もますます加速しそう――」
× × ×
「ひどいですよー板東さん。きょう、ランチタイムメガミックス(仮)で、ぼくの名前出したでしょ」
「うん、出したね、羽田くんの名前」
「…『365日モテ期』、とか、やめてください」
「でも、新年度になったんだし、羽田くんを猛烈にプッシュしとかないと」
「なんですか…それは」
「貴重な2年生だから」
「いまいち呑み込めないんですが…」
「KHKはわたしだけじゃない、ってことを、知らしめたいの」
「メンバーを認知させる、ってことですか? じゃあ、ぼくだけでなく、黒柳さんのこともプッシュしていかないと」
「え~、黒柳くん??」
ぼくが黒柳さんの名前を出した途端に、露骨にトーンダウンする板東さん。
これはひどいな……。
黒柳さんは、新企画のラジオ番組『宝物のメロディー』の取材に行って、いまは【第2放送室】には不在である。
「黒柳くん、どこに取材に行ってるんだっけ」
会長が把握しておいてくださいよ……と思いつつも、
「職員室ですよ……明智(あけち)先生にインタビュー、です」
「うそぉ~、黒柳くんが、明智先生にぃ!?」
だからなんで把握しておかないんですか。
「彼、明智先生と、まともに話せるの!?」
「あまりにも、黒柳さんのコミュニケーション能力を疑い過ぎでは……」
「明智先生、桐原高校教師陣のなかでも、指折りの『美女』でしょ? たぶん、インタビューしながら、眼がひたすら泳いでるよ」
「……板東さんは徹底的に、黒柳さんをバカにしますね」
「からかってるだけ」
「バカにするのと、ほとんど同じ意味では……」
「そうともいう」
フーッ、とぼくはため息ついて、
「でも――そういう態度も、信頼の裏返し、なんでしょう?」
「Why!?」
「と、とつぜん英語でシャウトしないでくださいよ」
「――信頼の裏返しとか、羽田くん大きく出たね」
「的を射てるでしょう」
「……」
「どうなんですか」
「……教えない。教えるわけない」
ポーカーフェイス……というか、
彼女の心境が、推し量りづらい。
板東さんにとっての、黒柳さんに対する、認識……。
ぼくには、軽く扱ってるだけ、とは、どうしても思えないんだけど。
× × ×
黒柳さんが、取材から帰ってきた。
「ご苦労であった」
冗談めかしたような口調で、いたって平静に、板東さんは黒柳さんを迎え入れる。
板東さんは、黒柳さんの前で、めったに表情を崩すことがない。
というのは、黒柳さんの前では、余裕しゃくしゃく、ということ。
ぼくとしては、黒柳さんにも、板東さんに、ひと泡吹かせてほしいところなんだけど……。
むしろ、
黒柳さんのほうは、板東さんのことを、どう思っているんだろう?
やられっぱなしで、苦手意識があるのか。
あるいは――。
詮索は、ほどほどにしたいけど、
同学年の、男子と女子で、
なんだかんだ、ふたりのつきあいは、長いんだし。
――なぜか、
卒業までに、ふたりのあいだに、『ひと波乱』あるんじゃないかと、
余計なことを思ってしまった。
たしかに、これは余計な妄想だ。
でも……なぜだか、
『このままなにも起こらないで、終わるはずがない』と、
そういう予感が、芽生え始めてきた。
なにも起こらないまま、終わる可能性だって、十二分にある。
マンガじゃないんだし。
ふたりの関係性が、どっちに転ぶのか――。
確率なんて、わからなくて、
とりあえず、
よこしまな妄想や予感を……こころの奥に、閉じ込めておくことにする。