侑(ゆう)をマンションに招いた。
せっかくマンションまで来てくれたんだから、侑が普段口にできないようなご馳走を振る舞ってあげる。
侑と隣り合って座り、向かい合ったアツマくんと楽しくお食事する。
「美味しいかい? 大井町さん」
侑に言うアツマくん。
「もちろんです。愛の料理は何度か食べさせてもらってるけど……いつも、『スゴい腕前だ』って感心するんです。今日も、感心しっぱなし」
侑にホメられた!
うれしい~~。
「あのっ、アツマさん」
今度は侑のほうから、
「わたしの呼びかた、なんですけど。『大井町さん』だと他人行儀みたいになっちゃうから……下の名前のほうが良いです」
「そうかぁ」
アツマくんは、
「じゃあ、『侑さん』って呼ぼうか」
と言うが、しかし、
「『さん』付け自体が、他人行儀かも」
と侑に言われちゃって――口ごもる。
呼び捨てにする勇気が無いのね。
そういう勇気の無さ、あなたらしいって思う。
これだから、わたしの彼氏は――。
× × ×
結局アツマくんは『侑ちゃん』と呼ぶことに活路を見出した。
侑への対応がしょっぱかった罰として、アツマくんにはリビングルームで寝てもらう。
ま、最初っから、寝室のダブルベッドに侑と2人で寝ることに決めてたんだけどね。
「可哀想かも……アツマさんが」
ベッド・インしてすぐに、リビングに続くドアのほうを見つつ侑が言った。
「必然なのよ。わたしと侑がこのベッドで寝るのも、アツマくんがリビングで寝るのも」
「必然?」
「こーなるふうに出来てるの」
既に身を横たえているわたしは、左隣で身を起こしている侑を見上げて、
「侑も横になったら? ご馳走いっぱい食べたから眠いでしょ」
と言って、
「遠慮は要らないわよ」
と言って、それから、
「安心して。シーツとか掛け布団とか、ベッド類のものは全部洗濯したから」
と言って、それからそれから、
「アツマくん臭なんて気にしなくても良いのよ」
と楽しく言う。
「別に、そんなことなんか気にしないけど」
と侑。
ホントぉ??
× × ×
身を横たえた侑。
くつろいだ気持ちになり始めているのが、左隣から伝わってくる。
「リラックスできるようになってきたわね」
侑の顔を見て言う。
「もっとリラックスしたって良いのよ?」
「もっとって、どんなふうに」
「全身で脱力」
「え……」
「全力でゴロゴロしなさいよ☆」
「……愛、なんだかテンションが高くない? あなたさっきコーヒー2杯も飲んでたでしょ。だから、カフェインで昂ぶってるとか」
「そんなことないわよ。わたし以上にカフェインとの付き合いかたを熟知してるオンナなんて居ないんだから☆」
唖然とする表情が視界に入ってきた。
揺さぶるようなことの言い過ぎみたいになるのも宜しく無いので、
「暗くしよっか」
と、リモコンに手を伸ばす。
闇になった。
天井を見ながら、
「アツマくんのこと、どう思った?」
と尋ねる。
約5秒間の沈黙のあとで、
「強くてたくましい人だって思った」
という答えが来る。
「みんなそう言うのよね。なぜか」
「……愛を守ってくれそうな人だって思った。どう言えばいいかイマイチ分からないけど、喩(たと)えるなら、ヒーロー……みたいな」
「『ヒーローみたいだよね』も、よく言われる」
「愛。実際問題……困ったときは、頼ったり、助けられたりしてるんでしょ?」
「否定できない」
「だったら、もっと認めてあげても」
「認めてあげてるつもりなんだけどな」
そう言ってからわたしは、眼をつぶりながら、
「彼、最初っから強くてたくましかったワケじゃないのよ?」
「……えっ?」
「強くなったこと、たくましくなったことには、ちゃんとバックグラウンドがあって」
「……どんな」
「少し長い話になるけど」
「……。
構わないわよ、長話になっても。
気になるから、教えて――バックグラウンドを。」