「昨日からあすかちゃんが利比古に対してツンツンしてるんだって」
「攻撃的な態度取ってるってことか?」
「そうみたいね。『わたしの作った夕食ホメてくれなかったら、今から24時間口(くち)きかない!』って言われたから、やむなく夕食のおかずを絶賛してあげて、それで交流の断絶は回避できたみたいなんだけど」
「依然として尖った態度は取り続けてる、と」
「そういうこと」
「あすかのヤツを懲らしめたほうが良いんだろうか」
「どうやって?」
「……邸(いえ)に行く」
「あなた社会人なんだから、そう簡単には邸(あっち)には行けないでしょ」
「そうではあるがだな……」
「わたしから、それとなくヒトコト言っておくわ」
「どっちに?」
「どっちにも」
難しい顔になるアツマくん。
「なによその顔。あすかちゃんにお説教するわけじゃないんだから、わたし。あの子にするのはお説教じゃなくてアドバイス」
食べ終えのお皿に彼は目線を落として、
「愛」
「なーに?」
「今度おまえが邸(あっち)に行くとき……」
「行くとき?」
「あすかに、料理を教えてやってくれ」
「あ~」
「おまえがあいつに教えたら、あいつの料理の腕前はグーンと上がるから」
確かに。
言えてる。
彼は食器類を持って、流しに運ぶ。
それから、じゃぶじゃぶと食器類を洗い始める。
わたしはそんな彼をまったりと眺める。
× × ×
「風呂にも入ったし飯も食った。あとは寝るだけだな」
「なにを言ってるの」
「は??」
「9時になったばかりじゃないの、9時に」
「く、9時になったからなんだよ」
「寝るにはまだ早いっ。夜9時に寝ていいオトナは、このブログの管理人さんだけっ」
「いや意味わかんねえ」
「すっかり恒例になった『読書タイム』は今日は無しだってことは、今朝の時点で決めてたけど」
「??」
「読書タイム無しの代わりに、あなたに『レポーター』になってもらうわ」
「なんじゃそりゃあ!?」
「リアクションが派手過ぎるわよ。気をつけなさいよ」
「レポーターってなに」
「今日の報告。1日過ごした中であったことを」
「あったこと……」
「何かしらあったでしょ。仕事場でお皿を3枚も割ってこっぴどく叱られたとか」
「イヤそれは無い無い」
「叱られなかったのなら――、仕事場に知り合いが来店したとか。例えば、葉山先輩。センパイはあのお店の常連でしょ?」
「葉山も来なかった」
……。
「社会人の1日にしては平坦過ぎない?? 本当になんにも無いってわけ」
トボけたふうなアツマくんは、こめかみを右人差し指でポリポリと掻いて、
「仕事終わりがいつもよりも早くて、夕方5時前には上がれたから」
うんうん。
そのあとで、どうしたのかしら?
「母校のキャンパスに行って、サークルに顔出ししようかなって思って」
それで??
「で、学生会館に行ったんだが、サークル部屋に行く寸前に、とある女子学生に呼び止められて」
……え??
女子学生??
とある、女子学生??
トボけた苦笑のアツマくんは、
「なあ、愛よ。いったいだれに出くわしたと思う?」
……。
もしかすると。
「……梢(こずえ)さん?」
答えると、彼は直ちに、
「ビンゴぉ~~~」
とオーバーな声……。
「……東本梢(ひがしもと こずえ)さん。
『西日本研究会』っていう気宇壮大なサークルの所属。
97年度産まれで、あなたの3つ上。
だけど、入学したのがあなたの2年後だったから、今、まだ3年生……。
あなたの提供する情報によると、ルックスは別として、166センチか7センチのスラリとした体型で、わたしよりだいぶ脚が長く……」
「オイオイ。
『愛より脚がだいぶ長い』なんて情報、おれは提供した憶えなんかねーぞ?」
「う・る・さ・い!!」
「エーーッ」
「長いったら、長いのよ。あなたも、否定しないでしょ」
「しない」
「くやしい……」
「おっ」