ライブ終わりの帰り道。
もちろんミヤジはお客さんに招いていた。
そのミヤジとともに帰り道を歩いている。
「全然違う印象だったな。やっぱりボーカルが男子に替わったからかな」
と言うミヤジ。
「奈美のほうが良かった?」
問うてみると、
「良い悪いの問題じゃない。ワダくん……だっけ? 彼には彼なりの魅力があった」
「ミヤジ」
「なんだよ」
「優等生的な答えだったね、今の」
「……悪いかよ」
若干顔を逸らすわたしの彼氏。
まったくー。
少しして、逸らした顔を元に戻して、
「ところでさ、あすかたちのバンドは……そろそろ、オリジナル曲を作らんの?」
うおー。
その質問が来たかーっ。
「結成してからかなり長いんだろ?」
「長いよ。長いんだけど」
わたしは、
「オリジナル曲作るのって大変だよ? 某アニメや某アニメみたいにスンナリは行かないの」
「某アニメや某アニメ……。ああ、アレとかアレとかか」
「10代の女の子が『ギターと孤独と蒼い惑星(ほし)』なんて曲をスンナリ作れたら、怖いよ」
「そんなもんか」
「怖い。」
ミヤジは暗くなった空を見つつ、
「でもさ。あすかはもうじき『10代』じゃなくなるよな」
――わたしの誕生日のこと言ってるんだね。
「そうだね、6月9日になったら、20歳」
「もうコドモでも無かろう」
「それがどーかしたの?」
「……」
黙ってしまうミヤジ。
なんてバッドタイミングな。
……お互いに立ち止まってしまった。
ミヤジの顔が街灯に照らされている。
照らされた顔面を覗き込むようにして見てみる。
距離感も狭くなる。
「黙られたら困っちゃう。言いたいことはちゃんと言って」
あんたの彼女としてお願いしてるんだよ。
だから、ホラ。
「僕が……言いたいのは。ハタチになったら、もうすっかりオトナだってことだから。……その」
「そんなボソボソ口調じゃダメっ」
追い詰めるわたし。
追い詰められるミヤジ。
窮地の彼、だったのだが、すうっ、と息を吸い込んでから、
「あすかは、もう一段階踏み出せると思う。」
と、しっかりした声で。
「――もうちょい具体的に」
「具体的に?」
「うん」
わたしが促すと、今度は彼のほうがこっちにカラダを寄せてきて、
「もう一段階踏み出せば、オリジナル曲の作曲だって作詞だってできる。おまえは文才豊かなんだから、作詞はすぐにできるだろ。
バンドのことだけじゃない。
おまえが編集に携わってる『PADDLE(パドル)』の記事だって、もっともっと良いのが書ける。高校時代に『作文オリンピック』で銀メダルを取った文才を、もっともっと輝かせられる」
その場に立ち続けるしかなくなる、わたし。
どちらかといえば冴えない彼氏の顔が、今は、冴えている。
見据えて、
「ステキなこと、あんまり言い過ぎないでよ」
と言ってあげる。
それから、右手で左手を掴む。
× × ×
「ハタチになったら、合法になることがあるよね」
「酒とかタバコとか?」
「タバコなんか吸うわけないけど、お酒は嗜(たしな)むかな」
「ふうん。あすかが飲酒、か」
「わたしのアルコール耐性は未知数なんだけど、さ」
「まあそうだよな」
「兄貴は普通だった」
「へぇ」
「お母さんは強い。相当強いよ」
「意外だな」
「そうなの? あんたが意外だって思うのが、意外」
「……」
「兄貴タイプかお母さんタイプか、どっちかだね」
「……僕は」
「え? なに?」
「僕は、あすかの耐性が……お兄さん寄りのほうがいい」
「な、なんで?!?!」
「ビックリし過ぎだから」
「も、も、もしかしたら、あんた……。わたしが愚兄みたいにアルコールにそれほど強くないほうが、『かわいい』とか思ってんの!?」
「よくわかったな」
「わたし、ドン引き」
「あすか」
「……なんなの」
「そんなに離れんでくれ」
わかってるから、それは……。
マンションの部屋に来たんだから、寄り添ってくれたほうが良いんだよね?
――わかった、わかったから。
近づけてあげる。距離。