「あ、結崎さんの椅子の近くの床が、キレイになってる」
気づいて言うわたし。
「どうやってキレイにしたんですか? エナジードリンクの缶がいっぱい落ちてたけど、全部なくなってる…」
結崎さんはわたしを見ずに、
「…きみには関係ないことだ」
とか言ってくる。
あのねー。
「結崎さぁん。」
「……」
「『きみには関係ないことだ』って言うってことは、なにかを誤魔化したい気持ちでいっぱい……ってことですよねぇ??」
天井を仰ぐ結崎さん。
無駄ですよ。
そんなことしても。
なにかあって――それを誤魔化したいんですよね。
……まあ。
わたしにだって。
結崎さんに対して……伏せておきたいヒミツ、あるし。
かくしごと、というか。
ひめごと、というか…。
× × ×
「早めに帰らせていただきます」
という挨拶もそこそこに、『PADDLE』の編集室を出た。
向かう先は、キャンパスに近いJR某駅。
待ち合わせに便利なスポットに立って――とある男子を待つ。
ま、とある男子、といったって――賢明なブログ読者のかたには、もう、バレバレですよね。
そうですよ。
ミヤジですよ……。
× × ×
「待ったか? あすか」
「…少しだけ」
「そうか。すまん」
「謝ることないよ」
「寛容だな、きょうは」
「きょうだけじゃ…ないから」
「あすか?」
「ううん、なんでもないよ」
「……わかった」
空が夕焼けに近づいている。
空気は澄んでいる。
秋の涼しさ。
「ねえ」
「どした?」
「コーラ買ってから、あんたの部屋に行きたい」
言ってから、ミヤジの反応をうかがう。
ミヤジはわたしの顔をチラ見して、
「――いいよ。わかった。コンビニに行くんだな」
と言う。
「行こう、行こう」
「――どんなコーラ買うんだ?」
「コンビニで決めるよ」
「…ふうん」
× × ×
ベッドの側面にもたれかかる。
コカ・コーラのペットボトルをプシューと開け、ゴクリゴクリ…と飲んでいく。
斜め右前のミヤジは、炭酸水のペットボトルを床に置いている。
「飲みなよ、ミヤジも。その炭酸水」
「……飲むか」
「あ!」
「え、えっ!?」
「もしかしたらさあ……」
いったんことばを切り、ニヤつきつつ、
「――わたしのコカ・コーラの飲みっぷりに見とれてた、とか??」
炭酸水を持ちながら――呆然とするミヤジ。
「面白いね、あんたって」
言ってあげる。
言われたミヤジは、
「……あんまりからかうなよ」
と、大方テンプレ通りのリアクション。
コカ・コーラを床にとん、と置く。
ミヤジと距離を詰めていく。
それから。
ミヤジの左手に――す~っ、と右手を伸ばす。
それからそれから。
ぎゅうぅっ、と、彼の左手を握って、
それからそれからそれから――、
右肩を、一気に、彼の左肩に、くっつけていく。
「――ミヤジ。
重要事項。」
「……重要事項とか。いきなりに、いきなりを、重ねやがって」
「ちゃんと聴いてよね」
「……聴くさ」
「よし。
……あいさつ。
あいさつに、来てよ。
わたしの……邸(いえ)に。」