「葉山先輩、今日は短縮版ですよ」
「わかったわ、羽田さん」
「センパイセンパイ」
「? なーに」
「センパイと短縮版に出るのって初めてじゃないですか? もしかしたら」
「そうだったかしらね」
「ま、このブログの管理人さんも正確には把握してないと思いますけど」
「こらこら、管理人さんの悪口言わない」
「やけに優しいですね」
「そう??」
× × ×
「ところで。
明日はいよいよ、センパイがいちばん楽しみにしてるイベントが」
「日本ダービーのことね」
「ハイ」
「競馬の祭典ね」
「無敗の2冠馬が3年ぶりに出るかもしれないんですよね? しかもキタサンブラックの子供」
「――羽田さん??
あなた……詳しくなってない?! お馬さんのことに……」
「『耳学問』というコトバはご存知ですよね」
「わ、わたしが喋りすぎたのかしら」
「センパイのご教授だけじゃないんですよ」
「え」
「知り合いの知り合いの知り合いの知り合いに、馬主の――」
「ちょちょっと待って!? 羽田さん」
「待って、とは」
「ほ、ほら、具体的な個人名挙げたら、角(カド)が立つでしょう?!」
「センパイ」
「……」
「真面目さんですね。案外」
× × ×
「わたし、大学で漫研系サークルに入ってるじゃないですか。センパイにおすすめの競馬漫画を教えてほしかったり」
「……。
マキバオーぐらいしか、知らない感じ?」
「まきばおー??」
「『みどりのマキバオー』って漫画が、90年代に少年ジャンプで――」
「ジャンプで連載されてたんですか! すごいですね。ヤングジャンプの『ウマ娘 シンデレラグレイ』ならわかるんですけど」
「う、ウマ娘のことは、そっとしておくとして」
「知ってますよ。ウマ娘が渦中(かちゅう)なことぐらい」
「週刊少年チャンピオンっていう雑誌が――あるでしょう?」
「ありますね」
「かつて、『優駿の門』っていう漫画がチャンピオンって長期連載されてて。作者がやまさき拓味(ひろみ)先生っていうんだけど。わたしの推しなのは、『優駿の門』よりもむしろ、青年誌で発表された『優駿たちの蹄跡』っていう作品で……」