お仕事の休みがもらえたそうで、わたしの大学のOGである藤村杏(ふじむら あん)さんがキャンパスに来てくれた。
藤村さんはわたしの出身高校のOGでもある。
ついでに言うと、藤村さんとわたしの兄は高校で同級生だった。
『初任給出たから、なんでも食べさせてあげるよ?』と言ってくれたけど、カフェテリアで期間限定スイーツを奢(おご)ってもらえたら充分だった。
というわけで、トールサイズいちごパフェをムシャムシャと食べている。
「あすかちゃん。暑いよねぇ、最近」
藤村さんが言う。
確かに。
「ですねー。パフェの中のアイスクリームが五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡る」
そう返答すると、彼女は苦笑いして、
「またまた、大げさな」
「えへへ♫」
わたしは笑い返す。
笑い返しつつも、『この期間限定いちごパフェで『PADDLE(パドル)』の記事が1つ書けないかなあ?』と考えたりもしていた。
残りわずかなパフェにスプーンを入れようとしていると、
『あら、あすかちゃんじゃないの!』
という声がわたしの右横から。
声の主は――。
× × ×
浅野小夜子(あさの さよこ)さんがわたしの右隣の椅子に座った。
わたしと浅野さんが藤村さんと向かい合う形になる。
藤村さんと浅野さんは同期なのだ。
ただ、藤村さんが卒業する一方で、浅野さんは大学に残った。
わたしの向かいには4年で卒業した藤村さん。
わたしの隣には絶賛5年生な浅野さん。
ええっと……。
この2人、どのくらい面識があったんだっけ。
お互いに顔と名前は憶えているはず。
ただ、サークル活動とかで近い距離に居たわけではない。
距離感の遠さは否めない。
もしかしたら藤村さんのほうは、急に浅野さんに割って入られたから、機嫌を損ねてしまっているかもしれない。
あらためて藤村さんの表情を確かめる。
右腕で頬杖をついて……見かけでは、不機嫌そうではない表情。
笑っているわけではないけど、怒っているわけでもない。そんな顔。
だけど、わからない。
内心ではムカッとしているのかも。
だって藤村さんって、かなり気が強いタイプだし。
予断を許さない。
……今度は浅野さんのほうを見る。
浅野さんは、ニコニコ。
一点の曇りも無きニコニコフェイスだ。
ただ、
『藤村さん。あなたのご機嫌斜めも、わたしのニコニコフェイスで包みこんであげるわよ☆』
みたいな『意志』が出過ぎてしまうと……不穏になっていくのは避けられない。
口火を切ったのは浅野さんだった。
「藤村さん、お仕事、どう?」
ニコニコフェイスは変わらないけど、相当にパワーのある振りかた。
訊かれた藤村さん。
今度は左腕での頬杖になって、
「どうせわかんないよ。だって、わたしは社会人、あんたは学生。――そうでしょ?」
と強烈パンチ。
二人称が「あんた」だという点に、藤村さんの攻撃性が凝縮されている感じ。
「そうね。振りかたが少しマズかったみたいね」
と浅野さん。
「とっても美味しくなかったよ」
と藤村さん……。
いつの間にか藤村さんは頬杖をつかなくなって、
「浅野さん。あんたってさ、『PADDLE』の結崎純二(ゆいざき じゅんじ)と仲良かったよね」
「あらぁー。仲良しとはちょっと違うわよ? 腐れ縁腐れ縁。わたしが彼をイジり倒して、彼がわたしにタジタジになってるだけ」
「それが仲良しってことなんじゃん」
気温の高まりに反比例するがごとき冷や汗。
ヤバい。
このままだと、カフェテリアじゅうの注目がここに……!!
「あ、あのっ。わたし、仲良しになるべきは、藤村さんと浅野さんだと思うんですけど」
たまらずわたしは、2人のあいだに入っていく。
しかし、あまり効果が無く、
「結崎のことがそんなに気になるの?? 藤村さん。」
と、浅野さんが言ってはいけないハイパワーなコトバを発してしまう。
「バカじゃないの!? 結崎なんかより、戸部のほうが100倍マシな男だよ」
「戸部くん? ――あすかちゃんのお兄さんのことよね??」
「そ、そ、そうだけど!?」
「そんなに仲良しだったなんて、あすかちゃんのお兄さんと」
「違う!!! 腐れ縁腐れ縁腐れ縁」
「おちつきなさいよ~~♫」