さやかがマンションに来てくれた。
「すごーい、いいお部屋じゃん」
入るなり、さやかはそう言ってくれる。
「思った以上に広い」
そう言いつつ部屋を見渡すさやか。
ダイニング・キッチンの方角に顔を向けて、
「ダイニングテーブルあるけど、愛はどっち側に座ってるの?」
と訊いてきたから、
「決まってはいないんだけど、だいたいこっち側」
と、だいたい座っているほうの椅子をわたしは指差す。
「じゃ、アツマさんはそっちか」
さやかはそう言って、
「座ってもいい? アツマさんがよく座ってるほうの椅子に」
「許可を取ろうとしなくたっていいじゃない。遠慮しないでよ」
「OK」
さやかが着席した。
真向かいにわたしも着席。
笑顔のさやかは、
「元気そうでなによりだよ。完全復活だな、愛」
「そうね。ドンドン上昇していってる感じ。谷底からぐんぐんぐんぐん――」
「絶不調な時期もあったからねえ」
「でも、絶不調なときに助けてくれたじゃないのよ、さやかは」
「いやいや、わたしひとりが貢献したわけじゃないし」
「ま、そうとも言えるけど」
わたしは腰を浮かせ、
「感謝の気持ちを込めて、美味しいコーヒーを飲ませてあげるわ」
× × ×
川又さんが選んでくれた豆で挽いた。
とっても美味しい。
とっても美味しいので、川又さんを褒めちぎっていると、
「居てくれて良かったよね。川又さんっていう後輩が、あんたに」
とさやかが。
「本当に可愛くて素敵な後輩よ。実を言うと、『玉にキズ』なところもあるんだけど」
「へー。どんなところが?」
「彼女、どうしてか、アツマくんに攻撃的なのよ」
「あーっ。なーんかそうみたいなんだってねえ」
「彼に突っぱねていく女の子も珍しいわよね」
「確かに」
さやかは、
「突っぱねる理由なんかないぐらい、いい男子(ひと)だと思うんだけどねえ」
と言って、それから、
「アツマさんは、いつ頃帰宅するの?」
と言う。
「まだまだよ。19時頃かしら? 今日は」
「そうなんだ」
両手でマグカップを持ち、コーヒーをぐい、と飲むさやか。
ことん、とマグを置いてから、
「ふたり暮らしの、あーんなことやこーんなことが聞きたいな~、わたし」
と言い、含みのある目線を送ってくる。
置き時計によると、現在16時過ぎ。
「時間帯が早すぎるんじゃないのかしら?」
わたしは言う。
「早すぎる? なにそれ」
「『そういった』話をするには」
「愛ってばぁ。あんた、なにを想定してんだか」
いったん立ち上がり、キッチンにわたし専用のマグカップを持っていき、コーヒーを注ぎ足す。
それから元の席に戻る。
それから専用マグを置き、テーブルの手前のところに両手を置き、少し前のめりになって、
「彼との◯◯なんかよりも」
と言って、
「最近いい出来事があったから、話したいのよ」
と言って、キョトンとするさやかを見つめて、
「――増えたの。呼び捨てする女の子が」
と打ち明ける。
「呼び捨てする女の子??」
依然キョトンとするさやか。
「そうよ、さやかに次いでふたり目」
「……もしかして。あんたのサークルで同期だっていう」
「流石さやかね。冴えてるわね」
マグを口に持っていき、注ぎ足したコーヒーをゆったりと味わう。
味わったあとでわたしは、
「『大井町さん』が、『侑(ゆう)』になったのよ。あっちも、『羽田さん』から『愛』呼びになってくれたというわけ」
と明かす。
さやかの眼が泳ぐ。
どうしたのかしら。
もしや、わたしが呼び捨てする女子が自分だけじゃなくなったのに、動揺?
「きゅ……急だね。なーんか、いきなりだね。確執とかもあったんでしょ? その子と」
若干上(うわ)ずるさやかの声。
そんな上(うわ)ずりを『かわいい……』と思いながら、
「ええ。ケンカもいっぱいしたわよ? だけど、とあるキッカケで、あの子のアパートに2泊3日することになって」
――すると、さやかはどんどん前のめりになっていき、身を乗り出し、わたしの顔に自分の顔を接近させ、
「詳しく。」