「浅茅原つばらつばらに物思へば故りにし郷し思ほゆるかも」
「……それはなんですか?? あすかさん」
「えええ、『それはなんですか』ってなに、利比古くん」
「……」
「和歌を、声に出して読んでたんだよ」
「和歌、ですか」
「そ。大伴旅人の歌」
「ぼくは、和歌を味わう素養も乏しく」
「わかる。素養が無いよね、利比古くんには」
「またバッサリと言うんですね……」
「ところで」
「?」
「大伴旅人の歌について語ってる場合ではなくって」
「もしや」
「その『もしや』だよっ、利比古くん。
今日も昨日に引き続いて、短縮版」
× × ×
「土曜も日曜も短縮版だとは。せっかくゴールデンウィークに突入したのに」
「ブログの管理人さんにトラブルがあったのが、理由らしくって」
「トラブルですか?」
「ずっと使ってた外付けキーボードが、経年劣化で入力しづらくなって。それで、新しいキーボードに換えたんだけど、まだ慣れてないらしく」
「またビミョーな理由を使いますね、あの人も」
「でも、いずれ慣れると思うよ、新しいキーボードにも」
「あすかさん」
「なにかな」
「さっきあすかさんは、和歌を音読してましたが」
「してたよ」
「どういったキッカケで?」
「そりゃ和歌のお勉強に決まってるでしょ。わたしだって教養をつけたいんだよ、教養を」
「それにしたって、白昼堂々和歌を音読しなくたって」
「……結構ヒドいこと言うよね、利比古くんも。『白昼堂々』は、ヒドいよ」
「ヒドくてすみません」
「すぐ謝るぐらいなら、最初から言わないで」
「ごめんなさい」
「……」
「どうしましたか?」
「わたし、今、思った」
「どんなことを?」
「利比古くんも、音読するんでしょ」
「なにを?」
「ウィキペディアの、放送関連項目の文章を」
「!? そんなことするわけないじゃないですかっ」
「否定しなさんな」
「あすかさんのほうが、ぼくよりも、百万倍ヒドいですっ!!」