【愛の◯◯】利比古くん自主制作CMと『明日美子パワー』……

 

昨日は藤村さんのピンチを救うという「成功体験」ができて嬉しかった。

この調子で行こう。

 

今は、夕食前のひととき。

やや小さい居間のようなスペースで、ソファに座り利比古くんと向かい合って、互いにまったりとしている。

……まったりとしていたのに、唐突に利比古くんが、

「あすかさん。ぼく、『CM研』の活動成果の話がしたいんですよ」

「利比古くんのサークルのハナシ? 聞き流してもいいのかな」

「どうしてそんなにつれないかなぁ」

ふんっ……とファッション雑誌に眼を凝らしたのだが、

「活動成果というのは、マク◯ナルドを研究した成果でして」

とか彼はわけのわからないことを言い出して、

「会長の白井さんと協力して、最近のマク◯ナルドのCMの流れを総ざらいして、映像的な特質を抽出することが……」

「とーしーひーこーくーーーんっ」

「エッ、どうしたんですか?」

「せっかくイケメンなのに、口から出てくるのは、キモメンっぽいコトバばっかり」

「さ、さすがにその罵倒はヒドくありませんか!?」

「いくらお姉さん譲りで、そんなに顔面が整っていても……」

 

× × ×

 

利比古くんは終始スネながら夕食を食べていた。

 

『◯ナルドは未だにCMで子どもと共演してるのか?』ということは訊いてみたくもあったけど、ね。

 

× × ×

 

で、夕食後。

広いリビング。

 

「そこに文芸誌が何冊か置いてあるでしょ利比古くん? ウィキペディアばっかり読んでるんじゃダメっ。文学に触れて、教養をもっと深めて……」

「ぼくCM雑誌が読みたいんですけど」

「そーゆー態度がダメなんだよっ!!」

「わぁ」

「なんなのその気の抜けたリアクション。怒るよ」

「あすかさんは、こんなにいっぱい文字の敷き詰められた文芸誌を、ひと月で読み通すんですか?」

「わたし文芸誌なんか読み通したことないよ」

「!?」

「おねーさんの部屋にいっぱい文芸誌残ってたから。『借りてもいいですか?』ってさっき電話したら、快く『いいわよー』って」

すごく微妙な表情になる利比古くん。

「なに。わたしに幻滅でもしたってゆーの」

「してないです。ただ、ぼくは……」

「ん?」

視線を上げて、彼は、

「出来上がった自主制作のCMがせっかくあるので、あすかさんに是非一度観てもらいたくって」

 

× × ×

 

文芸誌そっちのけで利比古くん制作CMの上映会になってしまった。

大学近くのカフェのCM。

「採用されたらケーブルテレビで流れます。たぶん採用されると思います」

へぇ。

利比古くんも、割りとやるんだね。

まるで成長していないわけじゃ無かったんだ。

けど、

「感じたんだけどさあ。利比古くんって、女子高校生がそんなにお気に入りなの?」

「と言いますと」

「JK前面に出てたじゃん、主人公だったじゃん。CM映像で」

「まあカメラはずっと彼女を追ってましたね」

「カフェの雰囲気に引き込まれていく制服のJKの物語……だったでしょ」

「実は、彼女は本当は高校生じゃないんですよ」

「ええっ!?」

「大学内からモデルを募って。制服姿に乗り気な2年生のかたが居(お)られたので、『それなら是非お願いできませんか!!』とぼくが押していって」

……思わずわたしは、利比古くんから遠ざかった。

 

× × ×

 

「歯止めがかかんないよ、彼。口から出ることもやってることもドン引きレベル」

「あらあら、もっと長所を見てあげなさいよ、長所を。利比古くんにだって魅力は沢山あるでしょう?」

焼酎をロックグラスにどぼどぼ注(そそ)ぎつつ言う、わたしのお母さん。

「沢山って。ルックス以外に浮かばないよ」

「――イザというときの、頼もしさ。」

「ぐ」

うろたえかかってしまう、わたし。

ミヤジとの破局直後の『あの夜』の一件を、それとなくお母さんは把握しているのだ。

「頼もしいと言えば、頼もしいのかもね……。わたしは安易に認めたくないけど」

「答えは火を見るより明らか〜」

「お母さんっ!」

ツッパってしまって、冷蔵庫を開けてしまう。

まさかの反抗期女子大学生。

でもそんなのわたしはイヤで、心の底ではとっても尊敬しているお母さんに対し反抗期なんか演じたくもなくて、だから大人しく缶ビールを取り出して、お母さんのロックグラスと乾杯する。

「乾杯ありがとう、あすか」

「わたしはお母さんに完敗。完全に敗れた」

「あら」

「……」

黙りこくって、缶ビールを喉に流し込むことに集中する。

「ぷは」と、空にした缶をダイニングテーブルに置く。

「流(ながる)さんとかサナさんとか、ダイニングに来る気配無いね」

「少し淋しくはあるわね。だけど、あすかとサシ飲みも久しぶりで、そういう点では嬉しい。母娘水入らず」

「『久しぶり』って。母娘サシ飲みの回数、まだ片手の指で数えられる程度だよ」

「ふふふ」

なぜか笑うお母さん。

ニッコリ笑うお母さん。

もしかしたら。

もしかしたら、お母さん必殺の『明日美子(あすみこ)パワー』が、いきなり……!!

「本日の明日美子パワーよ。あすか」

ほら!

ほらっっ!!

出ちゃったじゃん!!

「今夜は……なにを、わたしに強制させたいの」

「利比古くんの自主制作CMをもう一度観せてもらう。で、『良かった探し』する」

「『良かった探し』は、何個??」

「4つ以上」

きびしい。

「あの自主制作CMに、ホメられるとこなんて、4つも5つもあるのかな」

「あなたなら見つけられるわよ。なんだかんだであすかも、お腹の底では利比古くんを理解できてるはずなんだから」

「……理解、か」

「お腹の底だけじゃなくて、大きな胸の奥底でも――」

おっお母さんセクハラっ