【愛の◯◯】とあるお菓子のCM分析

 

とある地方都市。

大量の桜の花びらが川を流れている。

花筏(はないかだ)というやつだ。

その花筏を、制服を着た女の子が見下ろしている。

おそらく女子高校生だろう。

覗き込むようにして花筏を見ていた彼女を、カメラは真正面から写す。

それから、フラッシュバックのように、テニスウェアに身を包みラケットを右手で下向きに持った彼女が、先程と同じ構図で映り込む。

テニスの試合の回想。

おそらく彼女は試合に負けてしまったんだろう。表情がそれを物語っている。

ふたたび場面は元に戻る。

花筏を覗き込む彼女の目線が少し上がった。

するとカメラの向きが90度変わって、奥に彼女、そして手前にはなにやら人影らしきもの。

画面手前にだれかが立っているのだが、どんな人物なのか分からない。

ここで彼女がクローズアップされる。

彼女は花筏から眼を転じて、だれか知り合いを見つけたらしく、その人物に向かって笑いかける。

直前に画面手前に少しだけ映り込んだ人物に対するスマイルだろう。

少女が見つけたのは、家族か、友人か、それとも仲睦まじき男子か――。

引いたカメラ。

少女は奥から手前へと駆け寄る。

そして、場所はカフェの店内へと移り、少女は「だれか」と向かい合って、シフォンケーキを食べている。

手前に少しだけ映り込む「だれか」の正体が、最後まで分からない。

 

「愛されて40年」というコピーとともに、お菓子メーカーの名前・商品名・商品パッケージが映り、コマーシャルフィルムが終わる。

 

× × ×

 

「CM研」のサークル部屋。

上映が終わって、討議に移る。

白井世紀(しらい せいき)会長が、

「某県には民放テレビ局が3局しか無いようだが、その3局で流されている洋菓子のCMだ。県民にとってはお馴染みのお菓子らしい」

と説明してくれる。

「会長」

ぼくは呼びかけて、

「『愛されて40年』というキャッチコピーが最後に映りましたが、40年ということは、1980年代前半から、このお菓子は売られているわけですね」

「だな。今が2023年だから、40年前といえば、1983年だ。東京ディズニーランドが開園した年だ」

と会長。

「最近、テレビのニュースでも頻繁に、『40周年アニバーサリー!』って報道されていましたが」

とぼくは言い、それから、

「40年は長いですよね。TDLにしても、さっきのCMのお菓子にしても、相当な歴史があって」

「フム」

と言って、腕を組んで、会長は、

「羽田くんは、『40年は長いよ』派か」

「え……。『40年は短いよ』派も居たり??」

「ここに居るよ、羽田新入生。『40年は短いよ』派が」

背後から声。

ぼくを羽田「新入生」と呼ぶのは、副会長的ポジション女子の荘口節子(そうぐち せつこ)さんしかいない。

『40年は短いよ』派であるらしい荘口さんが、

「私の感覚だと、80年代前半発売開始のお菓子なんて、『歴史じゃない』んだよな」

と背後から言ってくる。

異論をいただいてしまった。

「和菓子じゃなくて洋菓子だけど、昭和30年代から売られ続けてるお菓子じゃないと、歴史や伝統や風格は感じられない。だから、『愛されて40年』なんていうコピーは、あんまり意味をなしてない」

……辛口だなあ。

「荘口よ。おまえはそう言うけど」

荘口さんやぼくとは向かい合いの白井会長が、

「その理屈だと、愛されて40年の東京ディズニーランドにも、歴史や伝統や風格が無いことになっちまうが?」

と、荘口さんのご意見を揺さぶる。

「そ、それとコレとは、別の話だっ」

焦るように突っぱねた荘口さん。

対する白井会長は、笑みを崩さず、

「たしかにな。洋菓子とテーマパークじゃ、土俵が違うよな。

寛容の原理』ってコトバもある……。いちおうは、おまえの意見に寛容になってやるとする」

と荘口さんに向かって言い、それから、

「ところで。ところで、だ。

 さっきのCMの『主人公』については――どんな感想を抱いた?」

『主人公』。

おそらく女子高校生であろう、CMの少女のことを言っているのである。

白井会長の視線が荘口さんへと伸びるのを感じる。

会長は荘口さんに意見を求めている。

……少し間(ま)があってから、

「私は……ああいう清楚タイプの女子は、好(す)きくない」

と荘口さんが、お気持ちを。

「ほほー」

と言ったかと思うと、会長は、

「CMに出てくるJKの8割以上は、あんなふうな娘(こ)だと思うんだが、荘口は彼女たちを軒並み嫌うってわけか」

たまらず荘口さんは立ち上がって、

「そっ、そっ、そんなことは言ってないが!? 好きな清楚と嫌いな清楚があってだな

 

……落ち着きましょうか。荘口さん。