「合格おめでとう、徳山さん」
羽田愛さんに祝福された。
面と向かって祝福された。
こそばゆい。
だけど、
「ありがとうございます。愛さんに勉強を教えてもらえなかったら、合格できなかったです」
と感謝する。
「愛さんがいなかったら、二浪(にろう)してたところでした」
少し冗談めかして言い足してみる。
「大げさだから」
とっても美人な苦笑い。
「第一志望の第一志望学部でしょう? ほんとうに良かったわね」
「はい」
「嬉しいわよね」
「それはもう」
「もちろんわたしも嬉しい。……嬉しいし」
「? なんですか」
「わたしからもあなたに『ありがとう』って言いたいの」
「えっ?」
「ほら……。わたしが調子落として、うまく指導してあげられなかったこと、あったでしょう」
あ~。
「あ~。そんなこともありましたねえ」
「あのとき徳山さん、優しかったから……感謝」
「どういたしまして」
愛さんは少し照れる。
× × ×
これまでのことやこれからのことについて、お邸(やしき)のリビングで雑談していた。
愛さんのほうも、これから忙しくなるみたい。
恋人のアツマさんと「ふたり暮らし」を始めるとか。
「ふたり暮らし」を言い換えたら――まあ、そういうことになるってことよね。
愛さんとアツマさんの未来に想いを巡らしていたら、利比古くんがわたしたちの場所に近づいてきた。
愛さんの弟さんである。
「徳山さん、こんにちは」
「こんにちは、利比古くん」
「志望校の合格、おめでとうございます」
「あなたもでしょ?? 利比古くん」
「あ……ハイ」
不変のハンサムフェイスで、照れ気味に言う利比古くん。
わたしは勢いに乗って、
「どっちも4月から大学生。わたしのほうが1個上だけど、スタートラインは同じになる」
「ハイ……。そういうこと、なんですよね」
「がんばりましょ。サークルとかは決めてるの?」
「いえ、まだですね。徳山さんは決めてるんですか?」
「お・し・え・な・い」
「え、えっ……」
× × ×
「利比古、完全にあなたの手のひらの中だったわねえ」
愛さんが超美人スマイルで言う。
利比古くんは自分の部屋に戻っている。
「あなたも、利比古の扱いかたを大分(だいぶ)覚えてきたみたいね」
「わたしは自然体で接してるだけですよ」
「だれに対しても?」
「それはどうでしょうねぇ」
「そっかー」
なぜだか、愛さんは軽く腕組みをして、
「濱野くんに向かっては??」
う……。
「愛さん……。ちょっと、唐突、かな。その問いは」
「でも、興味ないわけがないし」
「……」
「狼狽(うろた)えなくてもいいじゃないの。今後は、思う存分に――濱野くんとイチャつけるんだから」
「い、イチャつきなんか、しませんよっ!!」
「素(す)が出てるわよ。可愛いわねえ~」
……。
追い込まれた感じがある。
濱野くんとのことに興味津々な今の愛さんもまた、「自然体」だ。
わたしに対して余裕しゃくしゃく。
そう、余裕しゃくしゃく……なんだけど。
対抗心とはちょっと違うけれども……わたしのほうでも、タダでは終われないので、
「可愛いって言ってくれるのは嬉しいんですけど、」
「エッ、なになに」
わたしは少し居住まいを正してから、
「愛さん。愛さんに、どーしても言っておきたいことがあるんですよ」
「??」
ちょっとだけ息を吸い込み、それから、
「わたし思うんです。
愛さんの就職は、まだ先のことなんだけど。
受験勉強を教えてもらった上での、実感なんですけど……。
ぜったい。
ぜったい、愛さんは、学校の先生に向いてると思うんです」