【愛の◯◯】自覚と不覚

 

慌ただしい生活も小休止といった感じで、きょうはマンションの自室で1日まったりとできる。

 

くつろいだ服装でくつろぎながら、ノートパソコンを起動させ、ビデオ通話ソフトを立ち上げる。

 

約束の時刻きっかりに、羽田利比古くんからのコンタクトが来た。

 

× × ×

 

『こんにちは小泉さん』

「ヤッホー、利比古くん。元気?」

『はい、順調ですよ』

「お姉さんが、ひとり暮らしを始めちゃったみたいだけど」

『なんてことないです。順調です』

「頼もしいなあ~、男だ。男だよ、利比古くん」

『いえいえ、それほどでも』

 

利比古くんも、もうすぐ高校3年生。

最高学年だ。

 

「……うん。」

『どうしましたか? 小泉さん』

「フフフ……秘密だよん」

『え、えっ、』

 

× × ×

 

「クラブ活動、がんばってる?」

『がんばってはいるんですけど、4月の新入生勧誘で会員を集められないと、KHKがぼくひとりだけのままになってしまうんです』

「うーむ、ぼっち問題ってやつか」

『どうやって新しい子を引き込めばいいのか、悩んでて…』

「なるほどねぇ」

『…それと、去年の秋ぐらいから、放送部のひとたちにも振り回されまくってるんです』

「振り回されてる? …詳しく」

『同級生で、やっかいな放送部員の子が、ふたり…』

 

ほお。

 

「女の子なんでしょ、ふたりとも」

『……そうです』

「やっぱり、スミにおけないね。きみは」

『えええ……。なんですか、スミにおけないって』

「ひとつ忠告するよ」

『??』

「自覚。自覚……もうちょい持ったほうがいいよね、きみは」

『……どんな自覚ですか』

 

わたしはわざと可笑しげに笑って、

「お姉さんに訊いてみるといいよ。それこそ」

『姉に……』

「宿題。」

『しゅ、宿題とか、学校の先生みたいなことおっしゃいますね、小泉さんも』

 

だって。

だって――学校の先生志望なんだもの、わたし。

 

利比古くんには、伝えてなかったっけ?

 

…戸部アツマくんには、正月に、伝えた。

就活仲間として…ね。

わたしが教師志望を表明したとたんに、うろたえていたけど。

 

――そうだ。

そうだ、そうだ。

 

「あのさ」

『ハイ?』

「いま、戸部くん、在宅かなあ??」

『アツマさんですか? たぶん居ますけど』

「じゃあ、居たら、呼んできて」

『……アツマさんを、ここに、ですか?? 小泉さん、アツマさんとも通話がしたいんですか』

「したい!」

 

× × ×

 

画面に、のっそりと、戸部くんが現れる。

 

『……。来ましたが、小泉さん』

と戸部くん。

テンション、やや低め。

「どーしたの、上げていこうよ、戸部くん。就活でダメージ食らってるみたいじゃないの」

『食らわないほうがおかしい』

 

思わず出てしまう笑い声。

いけないいけない。

 

『なんでそんな余裕しゃくしゃくなのか、あんたは』

「しゃくしゃくじゃないよぉ」

『…嘘だろが』

「えーーっ!? わたしだって、アタフタしてるよー??」

 

あからさまに半信半疑な顔の戸部くん。

彼らしいリアクションではある。

 

…それはそうとして。

 

「ねえ! 羽田さん、ひとり暮らしになったんだよね!! ――どう?? じぶんの恋人が、そばに居てくれないっていう感覚」

『――どうもこうもねえよ』

 

戸部くん苦い顔だなー、と思っていると。

 

『……どうもこうもない、とは言ったが。

 あんたは、どーなんだ……小泉さんよ』

 

??

言い返す彼の意図が読めない。

 

「どーなんだって、いったい、?」

 

軽く、ため息。

そのあとで、戸部くんは、

 

『そばに居てくれるひとが、居るのかどうか、って話だ』

 

「……は、話が、見えてこないよ」

 

『だーかーらー。

 あんたのそばに居てくれるひとが、あんたには居るんか? って、話だよっ!』

 

「……わからない。」

 

『や、そこは、わかったほうがいいと思うぞ……小泉さん』

 

戸部くんが神妙な顔つきになってる。

 

 

戸部くんの言ったことを……脳内で、噛み砕く。

 

 

噛み砕いて、理解していくにつれて……。

つれて……。

 

 

『――ようやく顔が赤くなってきたか』