【愛の◯◯】放送部部長は始めない

 

「はいー、高津かがみです。

『ランチタイムメガミックス』のお時間であります。

 卒業式が終わって2日目。在校生徒は気を引き締めていかないといけませんね。

 もっとも、具体的になにを引き締めるのか!? っていう話ですけど。

 具体性の無いまま引き締めてもねぇ。

 ところで!

 今日は桃の節句。ということは、ひな祭りなワケです。

 ひな祭りといえば、『ヒナまつり』という漫画がありましたが、わたしは読んでおらず、アニメ版も観ておりません。

 それは余談として――わたしが幼い頃、ひな祭りのときは、家の3階にドデカい雛壇(ひなだん)が飾られていて。けっこう盛大に雛(ひな)を祭っていたというワケなんです。

 そんな昔話があります。

 

 あ。

 

『家の3階~』って言ったけど、わたしの家、3階建てなんだよね。

 思った?

 羨ましいと思った??

 

 思ったでしょお~~

 

× × ×

 

「今日がひな祭りだって、お昼のかがみのトークで思い出したよ」

放送部部長・若松ハナが言う。

放課後の放送部ルーム。

今日のハナは宿題などをテーブル上に広げることもなく、右手で頬杖をつきつつ雑談モードに入っている。

わたしは『部活しようよ』とハナを急(せ)かしたかったのだが、

「かがみの小学校だと、どんなひな祭りの替え歌が流行った??」

と、遮(さえぎ)られてしまう。

「物騒な替え歌、いっぱいあったよね」

とも言うハナ。

ひな祭りの話題にこだわっている。

そんなに部活の開始を遅らせたいの。

部長でしょうがっ。

「あんた、ダベリすぎだからっ」

とうとうわたしは怒ってしまう。

「後輩、自主的に発声練習を始めちゃってるよ!?」

後輩たちが頑張っている光景を見ながら怒るが、

「血圧上げないでよ、かがみ。あと5分で、わたしも発声練習始めるから」

信用できるわけないでしょ……。

「5分? 50分の間違いなんじゃないの!?」

と迫っていくが、

「5分だけちょうだいよ」

と意に介さないダメな部長は言って、それから、

「わたしは、かがみの意見を聴きたいの」

は!?

意見!?

「卒業式のあとでさあ……。

 猪熊先輩と羽田先輩のウワサが、拡散してるじゃん

 

たしかに。

たしかに、拡散してるけど。

絶対に5分で終わらせる気なんてありませんよね!? 部長さん……。

 

「『猪熊先輩が羽田先輩に告白した』とか。

『猪熊先輩が羽田先輩に背中から抱きついた』とか。

『猪熊先輩が羽田先輩の足を踏んづけた』とか。

 拡散の内容も、バラエティに富んでいる」

……腕を組んで言う必要なんかあるのかなあ!?

ないよね!? ハナっ。

わたしは椅子から立ち上がり、発声練習が行われているスタジオに突き進んでいく。

「え、なにか意見は無いの!? かがみぃ」

「現在(いま)は、無いっ」

「現在(いま)って」

ドアの眼の前で立ち止まり、

「今日はひな祭りだから、桃の節句なんだけどさ」

と言い、それから、

あんたの脳細胞は……桃色どころか、ピンク色だよね

と、どうしようもない部長を……罵倒。