【愛の◯◯】彼女の「キッカケ」が知りたくて

 

モニターに猪熊さんが映っている。

「今日はよろしくね、猪熊さん」

「はい。昨日できなかった話し合いを、今日は思う存分に」

あはは。

すごいモチベーションだなあ。

「……なんですか、その表情は?」

あっ。

いけない。

猪熊さんが険しい眼つきになってきちゃってる。

「羽田くんには、真面目に話し合う気があるんですか!?」

あんまり彼女の血圧を上げさせてもいけないので、

「ごめんね。なんだかヘラヘラしてる感じだったよね」

と謝罪。

「反省するよ」

しかし彼女は苦々しそうに、

「もっと信頼できるような態度を取ってください」

「できない? 信頼」

「できません。今のままでは」

「そっか。――どうすればいいかな」

「とりあえず、真剣な表情を作ってください」

「え。作る、って言われても――」

「あなたが真剣さに欠ける表情になっていたら、すぐに注意するので」

うーん。

そう言われてもなあ。

うーーん。

 

× × ×

 

いちおう、真摯(しんし)な態度で向き合うよう、努力はした。

努力の甲斐あってか、真剣さの欠落を咎(とが)められることもなかった。

 

「――猪熊さん」

「なんでしょうか」

「ずいぶん話したね。休憩しなくても大丈夫?」

「大丈夫です。羽田くんのほうは?」

「ぼくも大丈夫だよ」

「元気ですね」

元気だ。

それほど疲れていない。

なので、

「猪熊さん。実はね、前から、きみに訊いてみたいことがあったんだ」

「えっ」

不意を突かれたようなリアクション。

そのあとで、

「なんですか……? 訊いてみたいことって」

と、警戒するような眼つきになって言ってくる。

「あのね」

ぼくは、

「きみは、デフォルトの口調が、『ですます調』でしょ?」

警戒を緩めず、無言。

そんな彼女に、

「いつから、『ですます調』で喋(しゃべ)るようになったの? なにかキッカケでもあったのかなあ、って」

と訊いてみる。

沈黙を維持し続ける彼女。

なんだかコワい。

地雷でも踏んだんだろうか。

彼女の『ですます調』を掘り下げていくのは、デリケートなところに触れるような行為だったのか……?

ひとまず、

「話したくなかったら、いいよ。なにがなんでも知りたいとかいうわけじゃないから」

と言ってみる。

しかし。

「羽田くん」

猪熊さんは、猪熊さんらしさ満点の、真剣な表情になって、

「――お話ししましょう。この際ですから」

エッ。

「少し長くなりますけど……よろしいでしょうか?」

「う、うん」

覚悟はいいですね」

「か……覚悟って、いったい」