【愛の◯◯】好き勝手に注文し、好き勝手に提案する後輩たち

 

放課後。

某イタリアンファミリーレストラン

ぼくと向かい合い、後輩女子2人が仲良く座っている。

放送部部長、若松花(わかまつ はな)さん。

放送部副部長、高津(たかつ)かがみさん。

若松さんがニコニコと、

「羽田先輩。わたし、ティラミス食べたいです」

と言う。

「食べたいのなら、注文したらいいじゃないか」

と返すけれど、

「できればー、羽田先輩のー、『おごり』がいいかなー、って」

と、弾む声で、若松さんは……。

すかさず、若松さんの真横の高津さんが、

「わたしは、ティラミスも食べたいけど、プリンも食べたいです」

と言い出す。

よこしまな眼つきでぼくを見てくる高津さん。

そうか。

そういうことなんだね。

2人とも。

「――最初っから、ぼくがおごってあげるのを、期待してたんでしょ」

朗らかに笑う放送部部長&副部長コンビ。

あのねえ。

「だってぇ」

若松さんが、

「羽田先輩、なんだかんだで、いいトコの『お坊っちゃん』なんでしょ??」

と攻めてくる。

ぼくは、

「そんなことないよ。大金持ちでもなんでもないから、羽田家は」

「エーッ、でも」

攻めの手を緩めない若松さんは、

「海外暮らしのご両親、すごい企業に勤めておられるんでしょう??」

「すごい……かどうかは、わからない」

「先輩はご謙遜モードですけど」

なおも攻めを緩めない若松さんは、

「ポケットマネーで、サイゼのデザート全部、買い占められそうですよね」

なに、それ。

買い占めるって、なに。

 

× × ×

 

収拾がつかないので、観念して、全額支払ってあげることにした。

ワガママだなあ、きみたちも。

自覚したほうがいいと思うよ。

 

――それはさておき。

コーヒーカップをコトッ、と置いてぼくは、

「食べ終わったら、話し合いをしようね」

と告げる。

しかし、眼の前の2人は、黙々と食べ続けるばかり。

どうして。

「は……反応がほしいな」

困惑の芽生えを感じ始めるぼく。

困っていると、プリンを食べ終えた高津さんが、

「なにについて、でしたっけ?? 話し合いって」

ど、どうしてそんなこと訊くのっ。

「い、言ったでしょ!? ついさっき」

「ついさっきって、何分前ですか」

「30分前っ!」

「あ、じゃあ、忘れるのも致し方ない」

あるよっ!!

「先輩先輩、声が大きいですから」

高津さん、きみは……。

「黙食させてくださいよ」

くうっ……。

 

× × ×

 

「ごちそうさまでした」

ティラミスを堪能した若松さんが、

「わたしは、かがみと違って、ちゃんと把握してましたよ。――お昼休みの校内放送の今後について、でしたよね?」

「そ、その通りだ。偉い、若松さん。さすが部長だ」

「部長、関係ありますか」

苦笑いで、若松さんは、

「先輩。わたし提案があるんですよ」

「どんな?」

「『ランチタイムメガミックス(仮)』っていう長ったらしいタイトルが、現在の番組名ですよね?」

「うん」

「思い切って――」

「思い切って??」

「縮めませんか」

「え、縮めるって」

飲み込み遅いなあ、と言いたげな顔で、

「『メガミックス』っていうタイトルに、短縮するとか」

と提案する、若松さん。

「それは……思い切るね」

「思い切りすぎでしょうか?」

「うーん……。番組がリニューアルするとき、タイトルを短縮させるのは、ひとつのパターンだけど」

「――単に『メガミックス』ってするのが、抵抗あるなら」

今度は、高津さんが、口を開いて、

「『女神のメガミックス』、とか。」

と、ご提案。

いや。

提案してくれるのは、いいんだよ。

だけど。

『女神の』をくっつける必然性は、どこにあるの。

たしかに、『女神のメガミックス』って、語呂はいいよ??

だけど。

だけどさ。

女神って……いったい、だれのことなの。

見当もつかないんですけど。