【愛の◯◯】ダイニング・キッチンにおけるあすかちゃんとの押し引き

 

目が覚めて、お布団の中から脱出する。

 

からだを動かさなきゃ気の済まないわたしは、起床直後からさっそく筋トレを開始する。

 

まあ……激しい筋トレをするわけでもないんだけど。

軽く、軽く。

 

からだが適度に温まり、じわりと背中に汗をかく。

――ここらへんで、筋トレは終了。

 

× × ×

 

シャワーを浴びに、階下(した)に下りる。

 

汗を洗い流して身を清め、新しい服を着る。

 

 

バスタオルで髪を乾かしながら、ダイニング・キッチンに入っていく。

 

あすかちゃんが居た。

 

「あ、おはよーございます、おねーさん」

「ハイおはよー、あすかちゃん」

 

あすかちゃんはエプロン姿だ。

おたまで鍋の中を軽くかき回している。

ということは。

 

「朝ごはん、作ってるのね」

「そーですよー」

「グッドタイミングだったか、わたし」

「おねーさん、これぐらいの時間帯に起きてくるって思ってたから。それを見越して」

 

……なるほど。

 

「さすが、あすかちゃんね。わたしの生活パターン、よく分かってくれてる」

「分からないわけないじゃないですか」

「ほんとう?」

「分かりますよー」

 

お茶碗にごはんをよそいながら、彼女は、

「おねーさんのことだったら、なんだって把握してるんですよ?」

と言う。

「…たとえば?」

訊いてみると、

「いろいろ、ですけど。

 たとえば――、

 シャワーを浴びたあとで、髪がどのくらい『ハネる』のか、とか」

 

「え、えっ、『ハネる』って、なに」

 

「おねーさん。バスタオルをあてる場所が間違ってる」

 

「!?」

 

「――もうっ」

 

苦笑しながら、エプロン姿のあすかちゃんが、わたしの目前に急速に接近してくる。

 

「わたしが、やってあげる。」

 

そう言って――もぎ取るように、わたしからバスタオルを奪取して。

それからそれから……。

 

× × ×

 

作ってくれた一汁三菜の和風朝ごはんを、いただいたあとで、

「あすかちゃんには、ほんとうに敵わないわ」

と言うわたし。

 

「――さっき、わたしが髪を直してあげたこと、ですか?」

「そう、それ。あすかちゃんに直してもらえなかったら、1日中髪がハネっぱなしだったわ」

「あ~」

「ちょっと恥ずかしかったし、くすぐったかったけど」

 

微笑ましそうなあすかちゃんの表情。

 

……。

 

恥ずかしくって、くすぐったかったついでに。

わたしは。

 

「――ねえ」

「? なんですか、おねーさん」

「髪、といえば」

「いえば??」

 

「きょうのあすかちゃんの黒髪……とってもツヤツヤしてて、キレイ」

 

おねーさんっ!?

 

キョドるあすかちゃん。

無理もない。

 

「わたしなんかより、断然髪がツヤツヤよ」

「それは……どんな根拠で」

「フフッ」

「な……なに言い出すかと思えば」

 

可愛いわねえ。

 

髪をホメた、その次は――。

 

――あすかちゃんの眉毛のあたりに、視線を注ぎ込ませる。

ジックリジックリと、彼女を見る。

 

「……なにか言ってくださいよぉ、おねーさんっ」

 

「うん。……言う」

 

「……」

 

「あすかちゃん、」

 

「……はい。」

 

「『いいこと』、あったでしょ」

 

「ど……どんな」

 

だれかさんとの、関係性が、変化した。

 

……!!!

 

 

 

ほら。

図星じゃない。

 

わたしの眼は――ごまかせないんだから。