【愛の◯◯】「おねーさんの髪がカンペキだから」

 

ダイニング・キッチンでコーヒーブレイクしていたら、あすかちゃんが姿を現してきた。

 

「あすかちゃんだ」

「あすかですよー」

「大学、行かなくてもいいの。休講?」

「えへへー。そんなところです☆」

 

…苦笑いしながらも、わたしは、

「きのう、川又さんとなぎさちゃんが、わたしのお見舞いに来てくれたんだけど。ちょうどあすかちゃんは大学行ってる最中だったから、ふたりに会えなくて残念だったわね」

と話す。

あすかちゃんは椅子に座って、

「ほのかちゃん来てたんですよねー。渡したいものとか、ホントはあったんだけど、また今度になっちゃった」

「……あすかちゃん? 川又さんだけじゃなくて、なぎさちゃんも、来てたのよ……??」

あーっ、板東さんですかぁ

 

……どうしてそんなに素っ気なく言っちゃうの。

 

「――わたし、あなたとなぎさちゃんは、去年のハンバーグ対決で打ち解けた…っていう認識だったんだけど」

「たしかに、それはそうかも、ですね」

 

そ、「そうかも」、じゃ、心もとないでしょう。

 

それに、

「あすかちゃん……どうして、未だになぎさちゃんを苗字呼びなの? 『板東さん』呼びって、なんだか、よそよそしい感じ……」

「それもそうですね」

「…名前で呼んであげたら?」

「ハイ。では今後、『なぎさちゃん』で」

「……素直ね。素直で悪いことなんか、なんにもないけど」

あすかちゃんは元気よく微笑みながら、

「――もっとも、突然『板東さん』呼びに戻っちゃうこともあるかも、ですけどね」

 

……難しい関係、なんだろうか……。

 

× × ×

 

「なぎさちゃんとほのかちゃんって、ふたり合わせれば、プリキュア出来上がっちゃうじゃあないですか」

「…やっぱり、あすかちゃんもそこ、指摘するのね」

「略せば、『なぎほのコンビ』」

「ははは…」

「でも」

「?」

「うまくいくんですかねー、実際。まだよく馴染んでるわけでもないんだし、最初のうちは、ギクシャクしちゃうんじゃないのかなー」

「……まあそれは、織り込み済みということで」

「それにだいいち、なぎさちゃんとほのかちゃんが組んで、いったいどんなことをするってゆーんでしょーか??」

「そ、それは……わたしも、検討中」

「共通の敵と戦うわけでもないでしょ??」

「……そうなのよね。だから、検討しないといけないのよね」

「おねーさん」

「ん……」

「わたし豆乳飲みます」

「ご、ご自由に」

 

× × ×

 

コップに2杯。

立て続けに、あすかちゃんが豆乳を飲んだ。

 

飲み終えて、それから、

「――きょうのおねーさんは、カンペキだ。」

と、謎発言をして、それからそれから、

「カンペキってゆーのは、ですね。

 まず。

 長い髪が、ぜんぜんきょうは、ハネてない」

 

…言われて、思わずじぶんの髪をつまむ。

そんなわたしに、すかさず、

「寝グセ以外にも。

 いつもは必ず、最低1本はアホ毛が発生してるんですよ。

 とくに、今年おねーさんが不調になってからは、ボサボサロングヘアみたいな状態が常態(じょうたい)になってた。

 わたしが指摘して、ブラシかけてあげることも、しばしばでしたよね?

 でもきょうは、アホ毛も存在せず、ボサボサとは真逆の麗(うるわ)しい髪で――まさに、カンペキ」

 

「それは……ホメてくれてるの? あすかちゃん」

 

彼女はニッコリと、

「ベタボメですよ~~、鈍感なおねーさん」

と…言ってきた。

そしてそれから、

「…この調子ならば。」

と、意味深フェイスで言ったかと思うと、続けざまに、

「おねーさん。おねーさんが、よければ…の話、なんですけれどもね…」

と何事かほのめかし、それからそれから、

「徳山さんに。

 徳山さんに、チカラを貸してあげてほしいんです」

 

徳山すなみさん。

あすかちゃんの高校時代のクラスメイトの親友。

入試で失敗してしまって、このお邸(やしき)で慰めてあげた…ということが、今年の2月にあった。

 

現在は予備校生の徳山さん。

「チカラを貸してあげてほしい」。あすかちゃんは、そう言った。

ということは――つまりは。

 

「もしかして。あすかちゃん、わたしを、徳山さんの――」

「もしかしなくても、ですよ。おねーさん☆」