「――まず、羽田センパイに、謝らないといけなくって」
「え? どゆこと?? 川又さん」
「わたし……アツマさんに対して、取り乱しちゃったんです」
「取り乱した? いつ?」
「センパイが、3時のおやつを作ってくれる前に」
「どこで?」
「リビングで……。利比古くんと会話に花を咲かせていたところに、アツマさんがやって来て、それでわたし、水を差されたと思っちゃって……」
「怒ったのね」
「ごめんなさい……」
「まあ、ほんとなら、アツマくんに直接謝るべきなんだろうけど、そんな勇気は、難しいよね」
「ごめんなさい……」
「オッケーオッケー。彼は彼で、四六時中、空気を読めないキャラだし」
「……さりげなくキツいこと言いますね、センパイ。もっとアツマさんを持ち上げてあげても――」
「へえ~」
「?」
「川又さんが、彼の味方するなんて、珍しいね」
「!」
「取り乱した、自責の念?」
「……よく、わかりません」
そうか、そうか。
「おねーさん、早く、会を始めましょうよお」
あすかちゃんが促す。
そうね。そうよね。
「――始めちゃいましょう、土曜の夜の、女子会を」
あすかちゃん&川又さんの18歳コンビに、告げる。
「あすかちゃんも川又さんも、存分にアツマくんをディスってあげてね」
呆れ笑いのふたり。
言い過ぎだったか。
まあ、ともかくも、
『カンパーイ!!』
× × ×
もちろんソフトドリンクである。
そもそも3人とも、未成年だし。
カルピスウォーターのペットボトルを手に持っているわたしなのであるが……例によって、あすかちゃんが飲んでいる炭酸飲料に、興味がある。
「そんなペプシコーラもあるのね」
思わず言うと、
「おねーさーん、ぜったい、『少しでいいから飲ませて』とか、言うつもりなんでしょ」
「ギク」
「わかりますってー、おねーさんの魂胆ぐらい」
「……そっか。羽田センパイ、炭酸を口に含むと、酔っ払っちゃうんだよね」
川又さんが言う。
「そーゆーことなんだよねー。ほのかちゃん」とあすかちゃん。
「高等部時代のセンパイがコーラで泥酔した『事件』、記憶してるから」
……自重する気ないのね川又さん。
わりと封印したい過去、なんだけどな。
まあ……許してあげるわ。
「おねーさん。炭酸から、興味を逸らしてください」
「はいはい。…名残惜しいけど」
「きーてくださいよー、おねーさん」
「え? なにを? あすかちゃん…」
「利比古くんがですね…」
説明し忘れたが、ここは、あすかちゃんルーム。
やにわに立ち上がったあすかちゃんは、勉強机の引き出しを開けて、ホッチキスで綴じられたプリントを取り出す。
「なにそれ。レジュメ?」
訊くと、
「レジュメみたく手の込んだものじゃないです。ただの一覧表です」
「一覧表?」
「はい」
「利比古が、それを作って、あすかちゃんに渡した…というわけね」
「はいそうです」
「いったい、どんな一覧表なの」
「……コミュニティFMって、ご存知ですよね? おねーさん」
「ご存知よ」
「なんと、彼、全国のコミュニティFMのリストを作って」
「全国? そのプリントに、日本全国のコミュニティFMがリストアップされてるってこと??」
「……みたいです」
「いくつあるのかしら」
「いくつなんでしょーね。数えるのも面倒くさいぐらい、あるみたいで」
「わたしの弟も……よっぽどヒマなのね」
「コピー・アンド・ペーストっていう文明の利器もありますし、実のところあんまり手間をかけていない可能性も」
「それはよくないわね。あとで弟に注意しておくわ」
「できればお願いしたいです」
「放送文化を極めるのなら……もっと手間暇かけないと」
「極めた利比古くんもコワいですけど」
わたしとあすかちゃんのやり取りを眺めていた川又さん。
彼女が……ぽそり、と、
「利比古くんは……いい子ですよ。」
おおおっ。
「マニアックな面は、あるかもしれないですけど……いい子なんです、確実に」
おおおおお。
「……なんか、顔、火照ってない? ほのかちゃん」
あすかちゃんのご指摘。
それに対して彼女は、
「気のせいだよ、あすかちゃん」
「……かなぁ。コーラのカフェインで、顔が赤くなったりは…しないか」
「それは……コーヒー大好きの、センパイが、いちばんよくわかってる」
うん。
たしかにそうだけれども。
「コーラのカフェインのせいじゃないとしたら――」
わたしの、指摘は、
「――利比古に、デレてるから、火照ってる、とか?」
「――なに言いますか、センパイ。
そもそも、デレてる、ってどんな状態ですか」
「? ――決まってるじゃないの。
利比古への好意が、顔や仕草にあらわれてる、ってことよ」
「……!!」
「え!? なかったの!?!? 自覚」
「……。」
持っていた大ぶりのペットボトルコーラを、ことん、と床に置いて、彼女は、
「……。
やっぱり、コーラのカフェインに、責任を取ってもらいたいです、わたし」
……迷走してるわね。