【愛の◯◯】太鼓ゲームは上手くても、パンクロックは知らない彼女。

 

眼の前に、某太鼓的音楽ゲームの筐体(きょうたい)。

 

「意外でした。川又さん、こんなゲームをやるんですね」

音ゲーで、できるの、これだけ」

「失礼ながら……ゲーム自体、あんまりやらないのかと思ってました」

「案外来るんだよ、ゲームセンター。週1くらいの頻度で」

「へ~」

「ねえ、利比古くん」

「はい?」

「あなたのお姉さんも、ゲームセンター、わりと好きだったよね?」

「あ、よくご存知で」

「同じ部活のセンパイだったんだもん」

「あぁ、そうでしたねぇ」

「クレーンゲームに凝(こ)ってたとか……」

「はい。UFOキャッチャーですね」

「――知ってる? 利比古くん」

「なにを?」

「『UFOキャッチャー』って、セガ登録商標なんだよ」

登録商標

「そう。UFOキャッチャー名乗れるのは、セガだけってこと」

「…姉は、セガにずいぶん投資してたんですね」

「本人の気づかないうちに、ね」

 

「なんか脱線みたいになっちゃったから、さっさと太鼓、叩こうか」

「あの、このゲームのメーカーは?」

「……見たらわかるでしょ」

ほんとうだ。

ナ◯コさんだったのか。

「妙なところで、鈍いよね、利比古くんって」

川又さんは軽く笑いながら、

「でも、そんなとこも――面白いと思う」

…ぼくは、照れながら、太鼓のバチを取る。

 

× × ×

 

「だ、だめだあ、ぜんぜんできない」

「ショック受けてるひまないから!!

 ほら、『もう1回遊べる』って、ど◯ちゃんが言ってるじゃん!!」

「川又さん……すごくないですか?」

「スコアのこと? わたしより上手いひとなんて、星の数ほどいるよ」

「……」

「なんともいえない顔だね」

「い、いえ…」

「リトライ、始まっちゃう」

「あ、ああっ」

 

× × ×

 

連休の中日(なかび)。

川又さんといっしょに遊ぶには、うってつけなわけだ。

 

どこからともなく、『川又さんと遊ぶ』という情報を得てきたあすかさんに、

ひとしきり、からかわれ、

さらに、あすかさんに便乗した姉に、

やはり、ひとしきり、からかわれた。

 

味方になってくれたのはアツマさんだった。

「あんまりからかうもんじゃないぞ」と、女子ふたりに、注意してくれた。

「だいたい、おまえらは普段から利比古をイジメすぎなんだよ」とも。

かましく反発するふたりを、

「ギャーギャーうるせぇ!!」

と、制してくれたんだから……尊敬の念は、増すばかり。

 

× × ×

 

「出かけるのも、たいへんでした」

「どうして?」

「あすかさんと、姉が、うるさくって」

「あー」

「その点、アツマさんはオトナで……ぼくをかばってくれて」

「かばう、って」

満面の苦笑いの彼女。

「利比古くん、アツマさん、好き?」

「好きです。リスペクトしてます」

「そっかぁ……」

ん?

なぜだか、含みのある表情だ。

「川又さんは、アツマさんが……苦手とか」

「苦手じゃないよ。

 だけど――なんか、あのひとの前に出ると、反発心みたいなのが起こっちゃって」

「反発心」

「ヤキモチなのかな?」

「え、ヤキモチ??」

「あなたの、お姉さんの――恋人だし」

「な、なるほど……なるほどです」

「羽田センパイ、アツマさんといたら、彼のほうばかり向いて、わたしを見てくれてないような気がして」

「…考えすぎなのでは?」

「いつかさ。いつか……アツマさんを、ギャフンと言わせてやりたくって」

 

――なぜ、そこで右拳(みぎこぶし)を握るんですか。

穏やかじゃないですよ……!

 

× × ×

 

イメージカラーが黄色の某レコードチェーン店に移動した。

 

「――せめて、音楽の趣味で、アツマさんに勝ちたいよ」

「ア、アツマさんのこと、引っぱりすぎですって。それに――」

「それに、なーに?」

「手ごわいと思うんですけど――アツマさん」

「どーして」

「大学で音楽鑑賞サークル所属なんですよ。なんだかんだで、音楽の知識はそうとうつけてるはずで」

「音楽の趣味で打ち倒すのは――無理と?」

 

だからなんで『打ち倒す』とかいちいち物騒なのっ!?

 

――胸のうちだけでツッコんだぼくは、

「手ごわいのは確実です。生半可や付け焼き刃じゃ、音楽の趣味では勝てませんよ」

「でもやってみなくちゃわかんないよね」

 

だからなんでそんな好戦的にッ!?!?

 

「まずは――ロックかな」

「……いまの川又さんは、ロックというより、パンクです」

 

「……パンク、?」

 

「きょっキョトンとしないでっ、そこで」

「利比古くんっ、」

 

……もしや、もしや彼女は。

 

パンクって、なんなの??

 

「……あのですね、川又さん」

「んっ」

「あきらめが肝心です。あきらめましょう」

「エーッ」