【愛の◯◯】兄妹ゲンカはプログレ・ロックの題材にもならない

 

「お兄ちゃん、祝日だね」

「おー、そうだな、妹よ」

「ブログも小休止…ってところかな」

「小休止? 管理人の野郎、更新サボるってか」

「ち・が・う・よ」

「へ」

「更新は、する。きょうは、息抜き的な回」

「息抜きって、いわゆるひとつの『短縮版』かよ」

「ちがうちがうちがう」

「じゃあなんだ」

「あのね」

「…うむ」

「きょうは、お兄ちゃんとわたしだけで、ひたすら会話するの」

「?」

「だーかーらーっ!!

 地の文なし、

 視点の固定もなし、

 オール会話文で、記事を構成するんだよ」

「……そうであるか」

「そうであるかってなに。ムスーッとした顔になって…」

「……あすか。」

「なに、なんなの」

「……ほどほどに、だぞ」

「だからなんのこと!?」

 

× × ×

 

「わたしとお兄ちゃんで、精一杯がんばろーよ」

「がんばりたくないよ」

「出鼻をくじくような……」

「おれは癒やしがほしいの。こうやってソファでごろごろして、羽根を休めたいの」

「卑怯だよお兄ちゃんっ」

「いやいや、卑怯じゃないから」

「……もしかしてさあ。

 あっちに、マッサージチェアがあるけど、

 あのマッサージチェアで、ひたすらくつろぐとか、考えてんじゃないでしょーね」

「なぜおれの考えがわかった」

「妹だもん……」

マッサージチェア使うのは、おれの自由だろ?」

お兄ちゃんに自由なんかないんだよ

 

× × ×

 

「――不機嫌すぎ、お兄ちゃん」

「おれの自由を否定したあすかが悪いんだ」

マッサージチェアの向きを変えてまで、わたしの顔を見ようともしない……」

「それがどーした」

「お兄ちゃん……いま、いくつ?」

「は!? …ハタチだが」

「ハタチなのに、ずいぶん幼いよね」

「……また、挑発的な」

「挑発してないよ」

「じゃ、なんなんだよ」

「単純に、バカにしてるんだよ」

「……どこまでひどいんだおまえ」

 

「お兄ちゃん、マッサージチェアで頭抱えないで」

「ショックなんだよ。哀しいんだよ」

「哀しみにひたるのはいいけど、マッサージチェアで頭抱えるのだけはやめて」

「どうして……」

「どうしても!」

「……」

「お兄ちゃん?」

「……」

「む、無言はやめて、ペース狂う」

「……だよな」

「反省……してた、感じ??」

「少しだけ」

「んっと……わたしも、ちょっと大げさに言い過ぎたかもしれなくって」

「……おれのほうこそ」

「お願いが……ひとつ」

「おっ?」

マッサージチェアの向き……もとに戻して」

 

× × ×

 

「あすかは、素直でいい子だ」

「なにそれ。唐突に」

「兄として、ホメてるんだぞ」

「素直ってなに、素直って」

「素直に謝れたじゃんかよ、さっき」

「…うん、謝った」

「おれとおまえ、パーフェクト仲直りだな」

「……」

「な~に照れてんだっ!」

「――わたし、パソコン持ってくるから」

「逃げた~~、あすかが逃げた~~」

逃げないっ!

 

× × ×

 

「席を交代しようぜ。あすかがマッサージチェアで、おれがソファだ」

「…うん」

 

「――音楽鑑賞するつもりなんか? パソコン持ってきたってことは」

「…そうだよ」

「よっぽど、おれとふたりで聴きたかったんか、音楽」

「…ちがうよ」

「エエーッ」

「…なんとなく、開放感のあるところで、聴きたかったってだけ」

「なるへそ。じぶんの部屋よりも、よっぽど広いもんな、このスペースは」

「お兄ちゃん。」

「え、真顔で、どーした?」

Spotify、立ち上げて」

「あーっ、そのマッサージチェアからじゃ、PCに手が届かんもんな。…わかったよ」

 

Spotify起動したぞ。いつでも再生できるぞ」

「――再生してほしいプレイリストがあるんだけど」

「どれだ?」

「『プログレ的ハード』って名前のやつ」

「え~っ、これ再生すんのかよ~」

文句あるわけ!?

「だって、『プログレ的ハード』っていうプレイリスト名からして…」

どこが気に食わないっていうの

「…ほら、ただでさえ重いプログレッシブ・ロックに、ハードロック的なものが付け加わると…なんだか、かったるいじゃん?」

素人があることないこと言わないでよっ!!

「た、たしかに素人かもしれんけど、プログレいっさい知らんとかいうわけじゃないから」

「ホント……??

 お兄ちゃんが知ってるプログレバンド、ぜんぶ言って。」

「よ、よしきた」

「はやく」

「えーと、ピンク・フロイド

 キング・クリムゾン

 イエス

 それから、それから……」

「……やっぱり素人だったんだねぇ」

「……ぱ、ぱ、

 パーマー・アンド・レイク・アンド・キース・エマーソン

 

「――どんな覚えかたしたら、そういう間違いかたするの??」

「むぐ……」

プログレに失礼だよ」

「むぐううっ」

「謝って。プログレに、謝って」

「……ゴメンナサイ」