「あすか、進路のことは、考えてるんか?
三者面談のとき、二宮先生と、推薦入試のこととか、話し合ってたんだろ?」
「……。
お兄ちゃん、三者面談の日のこと、蒸し返すわけ……?」
「なんだよー、わるいかー」
「だ、だってっ」
「あ~、なるほどわかった。
あすか、おまえ、二宮先生に『ブラコン』だとか指摘されたのが、よっぽど応(こた)えてるんだな」
「んんんんんっ……」
「――図星なんだろ」
「……だから、そういうこと、蒸し返さないでよっ」
「顔が赤くなってきてるゾ~~、妹よ」
「うるさい!! 水に流せっ、バカ兄ッッ」
「でも進路のことは大事だからな。兄としても、気にしてる」
「あんまり気にしなくてもいいから。じぶんでがんばるから」
「そのりくつはおかしい」
「!?」
「おまえがじぶんだけで突っ走ると、ますます気がかりになる」
「……そんな」
「『そんな』、じゃねーよ。
見守るのは、兄として、当然の役目だから」
「……シスコンみたいなこと、言わないで」
「ばーか」
「む、ムカつく」
「――ま、おまえの言うように、シスコン入っちゃってるのかもな、おれ」
「シスコンを、自認!?」
「おまえみたいに、自分の『気持ち』に素直になれないよりは――マシだと思うが?」
「き、『気持ち』って……」
「それこそさ」
「……?」
「じぶんの胸に手を当てて――考えてみたらどうだ? 素直な、『気持ち』について」
× × ×
「――じぶんの胸に手を当てる代わりに、おれの胸をボカボカ殴ってきやがって」
「当たり前の反応でしょっ。デリカシーって単語、バカ兄の脳内には存在しないんだね」
「…いいじゃねえかよ、ちょっとぐらい」
「…は??」
「きょーだいなんだからさー。あすかの胸がどうとか言っても、少しだけなら、許される」
「……超問題発言!! 信じらんない、バカ兄、そこまで倫理観なかったの」
「んんん…」
「いちばんデリケートなことなのに」
「おまえの胸のことが?」
「――厚顔無恥バカバカ兄貴」
「えー、なんだそれ」
「――妹をエロオヤジ的な目線で見てない、ってのは信じていたのにっ」
「別に……見てねぇよ」
「説得力ない」
「あるだろ!」
「……。
ま、いいや。
水に流してあげる」
「意外にあっさりと」
「収拾、つかないし」
「よくわかってるじゃねーか」
「……ひとつだけ、妹から、警告します」
「警告?」
「……今後、わたしの、ブラジャーのサイズを、訊いてきたりしたら。
そのときは、おねーさんとふたりで、再起不能になるまで、ボコボコにボコり続けるから」
「――アホちゃうか!? おまえ」
「ど、どこがっ」
「そんなことに興味関心があるわけねーだろがっ! どこまで兄を誤解するのか、アホらしいったらありゃせんぞ」
「う、ううう」
「なあ、あすかよ」
「……」
「切り換えていこうぜ」
「切り換える…??」
「反省会やろうや、反省会。おれの大学前期と、おまえの1学期の、さ」
「……まあ、下世話な話よりは、マシだけど」
「とりあえず」
「とりあえず、?」
「あすかは通知表持ってこいよ。なんといっても、1学期の学業成績の反省だろ」
「……お兄ちゃんも、開示しないと、卑怯だよ」
「大学の成績か? 前期の成績発表は、まだ先だ」
「だったら、これまでの単位取得状況を、ぜんぶ開示して」
「エッなぜに」
「そうでもしてくれないと、アンフェアじゃん」
「おれはただ、兄として、妹の成績をチェックするのが『義務』だと思って――」
「じゃあ、妹として、兄の単位取得状況をチェックするのも『義務』だよね!?」
「――厳しいな」
「妹だからだよ」
「わかったよ。…2年までのおれの成績、プリントアウトしてくる」
「わたしも、通知表持ってくる。…恨みっこなしだからね」
「ああ。ケンカは、しない」
× × ×
「…あすかって、こんなに優等生だったんか」
「…お兄ちゃんが、こんなに単位取れてるなんて、思いもしなかった」
「がんばってるんだな、おまえ」
「お兄ちゃんも、意外とがんばってる。ほとんど単位、こぼしてない」
「おれを見直したか」
「――『B』や『C』の科目も、眼につくけど」
「でも合格であることには変わりないからな」
「――、
これだけ、『B』や『C』が多いと、
『そんなにBカップやCカップが好きなの?』とか、考えちゃう」
「――冗談だよな!?」
「…」
「じょじょじょ、冗談だって、言ってくれよ。そこは…お願いだ」
「…フフフ、フフフフッ」
「お、おい」
「お兄ちゃんが……どんだけ動揺するか、確かめたくって」
「しゃ、シャレにならんから」
「……わたしは、BでもCでもない。もちろん、Aでもない」
「あすかぁ!」
「――からかいすぎたかな」
「あすか、おまえ――さっきじぶんが言ってたこと、もう忘れたんか!?」
「警告、のこと?」
「そーだよ、それだよおっ」
「お兄ちゃん、からの、情報開示請求は、拒絶する、ってことで」
「……ウソだよなぁ」
「なんで絶望的な声のトーンなの?」
「あすか、おまえをそんなふうに育てた憶えは……ないぞぉ」
「お兄ちゃん、若干キモい」
「……BだってCだって取るさ。もちろん、Aだって取る。
ときには……Dだって」
「いやいや、Dはダメでしょ」
「……」
「不都合が多すぎるよ、Dは」
「不合格だっていうほかにも……か?」
「うん。
わたしにとっても、都合悪い」
「そりゃ……まさか」
「お兄ちゃんの胸に手を当てて――考えてみてよ」
「……ほんとにダイジョウブなんか? おまえ」