わたし・川又さん・松若さん・たまきさん――久々の『メルカド』で、久々に4人が揃って、とっても楽しかった。
松若さんもたまきさんも、順調そうでなにより。
ただ、わたしが、だいぶ遅れて来ちゃったのは……もったいなかったかな。
もっと早くメルカドに到着してたら、もっと長い時間楽しめたのに。
なんだかさいきん、遅刻が多い気がする。
『遅刻魔』みたいになるのはイヤだし……時間というものにもっと敏感になりたいところ。
ところで。
川又さん、なんだけど。
彼女――こんどはいつ、利比古とデートするのかしら?
気になるに決まってる。わたし、利比古の姉なんだよ!?
ムフフ……。
× × ×
ダイニングテーブルで、頬杖をついていたら、アツマくんがやって来て、
「きょう、たしか、利比古のクラブの先輩が、泊まりに来るんだよな?」
「そうよ。桐原放送協会。略してKHK」
彼は椅子に座りつつ、
「先週末はあすかの部活の合宿で、今週末は利比古のクラブ活動の合宿。ひっきりなしにイベントがやって来るもんだな」
「宿泊施設としては申し分ないもん、このお邸(やしき)」
「本格的にホテルと化してきたな」
「――ちゃんと歓迎してあげてね、KHKのふたりを」
「おまえもな」
「わたしはちゃんとやるわよ~」
「……ルンルンな顔だな」
気まぐれに、アツマくんのほうに右手を近づける。
そして、彼の左腕を、ぷにぷにとイジる。
「なにしてんのおまえ」
「手遊び」
「おれの左腕が、オモチャかよ」
「ただの時間つぶしよ。KHKのふたりが来るのは、まだ先だし」
ぷにぷに、ふにふに。
呆れた眼つきで彼は、
「――利比古は?」
「利比古? たぶんじぶんの部屋でしょ。宿題やってるか、誕生日プレゼントのラジカセでラジオでも聴いてるか、でしょ」
「ふうん……」
「なんであなた利比古のこと訊こうとしたの」
「いや……これから合宿なのなら……そろそろ階下(した)におりて来てんじゃないか……と」
「あなたも――気まぐれねぇ。いきなり利比古を気にし出したり」
「……おれは気まぐれじゃないっ」
――わたしはアツマくんの指にじぶんの指を絡ませている。
× × ×
ほぼ予定通りの時間に、KHKのふたりがやって来た。
板東なぎさちゃんと、黒柳巧くんの、3年生コンビ。
リビングに進入するなり、なぎさちゃんが、小走りみたいな足で、わたしのもとにやって来て、
「愛さ~~ん!! 逢いたかったんですよ~~っ!!」
と、抱きつくような勢いで、わたしの両腕をつかむ。
キラキラな眼だ。
「ほんとうに、わたしが恋しかった、っていうテンションねぇ」
「きょうとあしたは、わたし、愛さんの妹になりますから!!」
おねえさま、とか呼んできそうな勢い。
「わかったわかった、しょーがないんだから。……とりあえず、好きなところに座ったら? お菓子と飲み物、持ってくるから」
「お菓子って、なんですか」
「ショートケーキ、買ってきてるから」
「どのお店のですか!?」
わたしがお店の名前を言うと、
「まさか、あのお店のショートケーキが食べられるなんて!! わ~~い」
と狂喜乱舞。
「なぎさちゃんは――紅茶かな? 飲み物」
「ハイ、紅茶がいいです」
わたしとなぎさちゃんのじゃれ合い? を、遠巻きに見ていた黒柳くん。
彼を無視してはダメなので、
「黒柳くんは飲み物どうする? 紅茶? コーヒー? それともジュースがいいかな」
と訊いてみる。
「えーっと……」
迷っちゃうか。
「迷うよね、選択肢がたくさんあると。……わかった。冷蔵庫見せてあげるよ、黒柳くん」
「冷蔵庫!?」
ビックリする彼に、
「遠慮することないよ。冷蔵庫見て、飲みたいもの選んでよ。ジュースならなんでもあるし、あえてお茶にする、って選択肢ももちろんあるよね」
彼は少し逡巡(しゅんじゅん)していたが、
「では……おことばに甘えて」
決まりだ。
黒柳くんを、冷蔵庫に案内。
わたしはダイニングのほうに向かいかけた。
ところが、なぎさちゃんの様子が、なんだかヘンなことに気づく。
険しい眼つき。
イラついてるような口もと。
「――あ、もしかして、なぎさちゃんも冷蔵庫見たかった?」
「……はい。おねえさま」
「……だ、だったら、いっしょに見に行こうか」
「そうさせてください、おねえさま」
「おねえさま」呼びを……繰り返す……謎。
おもむろに彼女は言う、
「黒柳くんひとりに冷蔵庫を見させるわけにはいかないので」
「エッ、それ、どーいうこと」
「ごめんなさい、それは言えない約束なんです……おねえさま」
「や、約束って、だれに対しての」
「……」
「なぎさちゃん……?」
「……ダイニングルームって、こっち方面でしたよね? おねえさま」
「合ってるけど……」
× × ×
「KHKのふたり、来たみたいですね」
「うん。リビングでくつろいでもらってるわ」
台所作業に取りかかっているわたしのそばで、あすかちゃんが椅子に腰かけて漫画を読んでいる。
水道の水を出しながら、
「なぎさちゃんが、きょうとあした限定で、わたしの妹になりたい!! って。ほーんと、かわいい子よね」
と言う。
「妹分が、増えちゃったな。なぎさちゃんったら、やたらわたしを『おねえさま』とか呼んでくるし――」
後ろで、鈍い音が聞こえた。
だれかが、なにかを、テーブルに叩きつけたかのような……。
気のせい?
気のせい、よね?