【愛の◯◯】徳山さんが夏女かどうかは別として短縮版

 

「徳山さん、きょうは短縮版だよ」

「――そう」

「あれっ。やけに落ち着いてるね徳山さん。わたしが短縮版宣言しても、動じない――」

「文字数を教えてちょうだいよ、小野田さん」

「お」

「短縮版なんでしょう? 何文字でまとめるかがポイントなんでしょう」

「んー」

「はやく」

「900」

「900字程度ね、わかったわ」

「おぉ、徳山さんヤル気だ」

「…グズグズしてると、あっという間に文字数オーバーよ」

「すごいヤル気。そのモチベーションは、どこから??」

「…夏だからかしら?」

「うお」

「…なによ、その反応」

夏女だったんだ、徳山さん」

べ、べつに!?

「燃えてるね」

「……ふんっ」

 

× × ×

 

「でもさ、夏っていっても、もう8月下旬なんだよねえ」

「暑さは続きそうだけど」

「勝負の夏は、続くのかー」

「『勝負の夏』って、大学受験勉強的に、ってこと?」

「そのとおり徳山さん」

「わたし、『勝負の夏』ってコトバ嫌い」

「え?? なんで」

「……受験にまつわる紋切り型な表現って、鬱陶しくない?」

「たとえば??」

「『受験は団体戦』……だとか」

「あー、ありがち」

「小野田さんだって、こういう表現は鬱陶しいんじゃないの」

「――だけどさ」

「?」

「わたしたちが居た高校って、『受験は団体戦』だとか言ってる先生、ひとりも居なくなかった??」

「……そういえば」

「今の予備校だってそうじゃん。『受験は団体戦』なんて、だれも言ってないじゃん」

「……たしかに」

「紋切り型表現を徳山さんが気にし過ぎってことでしょ」

「……恵まれてたのかしら、わたしたちって。『受験は団体戦』なんていう雰囲気とはかけ離れた空気の高校に、通うことができて……」

「校風、ってやつだね」

「あの空気を懐かしがってばかりいても……仕方ないけど」

「――でも、ときどきは、戻ってみたくない?」

「……戻ったら、前に進めなくなる」

「そんなに焦らなくてもいいのに」

「あ…焦ってるのとは、ちょっと違うから」

「『戻ったら、前に進めなくなる』なんて、焦燥感のむき出し以外のなんでもないじゃん」

「わ…わたしは、焦燥感なんてっ」

「徳山さぁん」

「……」

「テーブルを叩かないの」

「……」

「フ◯ッシュネスなバーガーショップの備品は、大切に」

「……そうね」

「わかればよろしい☆」