「――そっか。けっきょく、徳山さん、小野田さんといっしょに、フレッシュネスなハンバーガーを食べたんだね」
『……しぶしぶ、よ』
「ほんとぉ??」
『あ、あすかさんっ!!』
徳山さん――、
声が、裏返ってる。
「いいじゃん、ひとりぼっちで昼ごはん食べるより」
『……そう?』
「ひとりぼっちでフレッシュネスしても、そんなにリフレッシュできないんじゃないの」
『……そうかもね』
「――歩み寄れたじゃん、小野田さんに」
『歩み寄ってきたのは、あっちのほうっ』
「あー、たしかに」
『……』
「お~い、どうした~」
『……あのね、あすかさん』
徳山さんらしくない、力の抜けたような口調になって、
『わたし……小野田さんのこと、これまで一方的に敵視しすぎてたんじゃないかって』
「おぉ」
『ふたりでいっしょにフレッシュネスして、面と向き合ったら――そんなに悪い子じゃないのかも? っていう気持ちが芽生えて』
「なるほど」
『あ、あすかさんにだから、言えるのよ』
「おしゃべりとか、したんだ。フレッシュネスで」
『そう――話してみたら、なぜだか、打ち解けたみたいな感じになって』
「それはいいことだ」
『午後の1つ目の授業が、世界史だったのね――それで、世界史の問題を出し合ったりして』
「もう、そんなところまで行ったの!? 小野田さんと」
『かっ、からかうように言うのはやめてよあすかさんっ』
「でも――仲良く、なれたんじゃない」
『競い合う、ライバルよ……友だちとは、少し違う』
素直じゃないなあ…やっぱり。
× × ×
電話で、徳山さんと小野田さんが順調に距離を縮めていることがわかって、よかった。
性格が対照的だから、あんがい、ウマが合うのかもね。
…翌日、スポーツ新聞部で編集作業をするために、夏休みの学校に登校した。
…さっそく、
「加賀くん、がんばろうね」
と声をかけ、
「――徳山さんも、がんばってるよ」
と揺さぶる。
加賀くんが手にしていた将棋の駒が、ポロリと落ちた。
動揺を隠すように、彼は将棋盤に眼を伏せる。
「……徳山さんがなんなんだよ」
弱々しく言う彼。
わたしが突然徳山さんを引き合いに出したから、こころが穏やかでなくなっているのは間違いがない。
――あこがれなんだもんね。
――加賀くんみたいに、あこがれる男子が出てくるのも、わかるかも。
なんだかんだで、見てくれがいいのだ、徳山さん。
まず、スタイルがいい。
身長、たしか165センチぐらい――脚の長さが、眼につく。
脚の長さとか、からだ全体のスラリとした感じとか、わたしには真似できないもので――見惚れる。
胸もけっこうあるんだよね。
わたしほどじゃないんだけど。
――そんなことはまったくどうでもいいとして、
ルックスも、なかなかのものがある。
眉間にシワを寄せたり、しかめっ面(つら)したりしてることが多いから、
男子でもいまいち、整った顔立ちの綺麗さに気づけていないような向きもあるけれど、
気づく子は、気づく。
加賀くんも、たぶん、気づいてる――徳山さんの、『綺麗』に。
残念なのは、徳山さん本人が、スタイルやルックスの『綺麗』を自覚していなさそうなことだ。
徳山さん――あなたはあなたの『綺麗』にもっと気づいてほしいよ。
もったいないから――。
「……不気味な眼で見つめやがって」
「ごめんごめん、観察してた」
「ハァァ!? おれはアサガオかよ」
「うまいこと言うね加賀くん。たしかに、観察日記のアサガオだ」
「アサガオと同類にすんなよ、バカバカしい」
「加賀くん、」
「なんだよっ、ニコニコしやがって」
「どうして顔がほんのりと赤いの?」
痛いところを突かれた加賀くんは、歯噛みして、駒を将棋盤に強く叩きつける。
彼の顔が、ほんのりと赤い理由――、
それは、わたしが、徳山さんの名前を出してきたからで間違いがない。
わたしが「徳山さん」と言ったから、彼女を意識しちゃってるんだ。
「その顔の赤さだと、取材に行くとかはムリそうだね」
「……」
「副部長のキミには、活躍してほしかったんだけど」
「……」
「とりあえず、クールダウンしよう」
「……るせぇぞ」
「クールダウンしてから、がんばろう?
徳山さんが喜ぶような将棋欄を――」
「あのなぁ!!」
――キレ出すところまで、わたしは折り込み済み。
「わかった、わかった。おちついて」
「……落ち着けなくしたのはだれだ」
「きょうはもう、徳山さんがどうとか、言わないから」
「……ホントだろうな」
「これ以上茶化すと、将棋盤で殴られそうだから」
「そんなことするわけないだろが……」
「もし、また、わたしが『徳山さん』って言っちゃったら、ピコピコハンマーでお仕置きしてよ」
「ピコピコハンマー!?」
「――あ、そんなもの、この部屋に存在しないとか思った?」
「――思うだろ、普通」
「あるんだなー、これが」
「――ウソ、だよな」
わたしは、「会津くーん」と声をかけて、
「会津くん、後ろのロッカーの、右から2番目の上段を開けてみてよ」
会津くんは快くうなずき、ロッカーまで歩いていき、言われた通りに、右から2番目の上段をオープンしてくれる。
そしたら――赤いピコピコハンマーが、ポロッとこぼれた。
「――はいっ、このピコピコハンマーの所有権は、きょういちにち、加賀くん」
そう言って、加賀くんにピコピコハンマーを渡そうとするわたし、だったが、
「あすかさん――」
「え、なに、早く受け取ってよ、ハンマー」
「――お笑い番組みたいなことでもしたいんか? あんた」
――どうだろなぁ。